約 14,844 件
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/778.html
上条が臨時警備員になって早くも一週間。 相変わらず訓練は厳しいが、徐々に慣れ始めている。 今日は第二学区ではなく、始めに手続きをした警備員の支部に二人は来ていた。 「今日は私の部隊に挨拶してもらうじゃん」 支部内の廊下を歩きながら黄泉川が言う。 「ま、アンタが特別なのは皆知ってることだから、改めて挨拶っていうのもおかしいけど…」 黄泉川は第一会議室と書かれた部屋の前で止まった。 「転校生ってこんな気分なんですかね?」 「そうかもね」 くだらない事を言う上条に黄泉川は笑って答える。 黄泉川がIDカードを当てると扉が開いた。 「あ、おはようございます」 扉の中では数人の隊員が談笑していた。 上条は映画のようなピリピリとした空気を想像していたが、それとはまったく正反対の空気に驚く。 (教師で組織されてるあたり、やっぱり違うのか…) 「今日は前から言っていた臨時の奴を連れて来たじゃん」 「へぇ…あの高校生の…」 黄泉川が言うと隊員達は珍しそうな顔で上条を見る。 「ほら、自己紹介するじゃん」 向けられる視線に少しどぎまぎしていた上条だったが、黄泉川に肩を小突かれ我に戻る。 「え…あ、臨時警備員の上条当麻です。 短い期間かもしれませんがよろしくお願いします」 そういえば自分はどれくらいの期間警備員をすればいいのだろうか、と思う。 そのあたりは詳しく教えられなかったが、やはり例の事件が解決するまでだろうか。 頭を下げながら少し重要なことを考える上条に拍手がおくられる。 その後、各々の隊員から紹介があった。 「ま、ここにいるのが私の部隊だから、名前と顔くらい覚えとくじゃん」 そう言えば黄泉川の部隊にも例の事件で怪我人が出ているということだったが、 隊員たちを見ると頬に絆創膏を貼っていたり、手を包帯で巻いていたりと無傷の隊員のほうが少ない。 これが現実か、と上条は改めて今回の事件がいかに危険なのかを実感する。 本職の人間でさえこの有様だ。 遊び半分で首を突っ込めば命を落とすかもしれない。 そして中途半端な新参者が来れば、それだけで部隊に危険が及ぶこともある。 黄泉川はこれだけの危険を背負って、自分が警備員になることを承認してくれたのだと思うと、 単純に人を助けたいといった理由で返事をした自分が憎くなった。 「どうした上条?早く席につくじゃん」 「あ、はい…」 「ここにいるのは皆教師。そんなに固くなることはないじゃん」 黄泉川に促され椅子に座る。 黄泉川は冊子を隊員達に配り、ホワイトボードに何かを書き始めた。 ホワイトボードには『冬休み』と書かれた。 「さ、明日から冬休みじゃん!」 バン、とホワイトボードを叩きながら言う黄泉川。 ちなみに今日は終業式が終わった後。 昼過ぎからの出勤(?)となっている。 「みんな知ってのとおり、長期休業中は生徒達の夜間徘徊や生徒間のトラブルがよく起こる。 また、生徒達が街に出るようになるということは、例の事件も街で起こりやすくなるじゃん」 例の事件、と言われて隊員達の表情が強張る。 上条が臨時警備員になってからはまだ事件は起こっていない。 一部報道機関ではすでに解決したのでは?とまで噂されている。 上条もその報道を見て少しそう思っていたが、当事者である警備員達の様子を見て思い直した。 「例年通り、今日から警邏活動を強化するじゃん。二人一組の班にわける」 名前を読み上げ、次々とペアを作っていく黄泉川。 案の定、上条は黄泉川と組むことになった。 「それじゃ、皆気を引き締めて警邏するよう!以上じゃん!」 黄泉川が言い終えると、隊員達はペアを組んだ者同士で打ち合わせを始めた。 「よし、私たちも動くじゃん」 そう言って黄泉川は机に地図を広げた。 「今日行くのは第十五学区。 繁華街があるから夜遅くまで生徒がウロウロしてることもあるじゃん。当然、生徒間のトラブルも多い」 地図にはところどころ印が付けられている。 「この印はあまり人目につかないところ、カツ上げとか喧嘩とかちょっと危険なところじゃん。 ま、あとは行ってから説明するか」 出発じゃん。と言って地図をしまう黄泉川。 「さ、初出動、張り切って行くじゃん!」 「はい!」 上条と黄泉川は勢い良く会議室から飛び出した。 一方、美琴も風紀委員の177支部で挨拶をしていた。 「臨時で来ました御坂美琴です。本日からよろしくお願いします」 「お姉さまー!黒子はこの日を待ちわびていましたのよー!」 「うっさい!アンタこの一週間ずっとその調子で私に飛び付いてたでしょ」 飛び付く黒子を手でおさえる美琴。 臨時風紀委員は冬休みからの参加となっていた。 「年末にかけて、どんどん忙しくなるけどよろしくね、御坂さん」 黒子の様子にやれやれと笑いながら言う固法。 「あ、はい。覚悟のうえです」 「一緒に頑張りましょう!御坂さん!」 「私も応援してます!」 初春と佐天は拳をぐっと握り、目を輝かせている。 「あはは、何もわからないから役立たずかもしれないけど、よろしくね」 固法は支部の扉を開けて 「それじゃ、まずは支部管轄内の見回り、行きましょうか」 「さすがは警備員との共同戦線なだけありますわ。こちらのほうが私たちの性にあっていますの」 「私はいつも通り、支部内から連絡します」 「お願いね初春さん。それじゃ御坂さん、白井さん行きましょう」 「はい!」 三人が出て行くと、支部内を静寂が襲った。 「…」 扉を見つめながら、目を細める佐天。 「佐天さん。私、佐天さんの入れる紅茶かココアがあると、作業効率が120%になるんです」 「え?」 佐天を見ながら微笑む初春。 眩しくて、それでいて壊れそうな綺麗な笑顔。 抱きつきたい衝動を押さえ、佐天は給湯室に向かおうとしたが、くるりと振り返る。 「やっぱりこらえられなーい!」 「わわわ!佐天さん!」 支部内の静寂はどこかへ消えてしまった。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1397.html
放課後、学校帰り 佐天「はぁ、来週は身体検査(システムスキャン)かぁ……」 佐天「どうせまたレベル0って判定されちゃうんだと思うと気が重いなぁ」トボトボ 黄泉川「んー? 憂鬱そうな学生が居ると思えばいつだかの講習生じゃん」 佐天「え?」 カクカクシカジカ 黄泉川「なるほど、事情は大体分かったじゃん」 黄泉川「何をクヨクヨしてるかと思えば……あの講習で少しはマシになったかと思ってたじゃんよ」 佐天「いや、別にまた後ろ向きになってるとかじゃないんですよ?」 佐天「ただ、こう、ハッキリと0って数字を見せられるとどうにもへこむというかなんというか」 黄泉川「まあ、一理有るのは認めるじゃんよ」 黄泉川(小萌先生ならこう言う時何か上手いアドバイスでも出来るんじゃんよ……) 黄泉川(けど生憎私は能力開発はそれほど詳しく無いじゃん) 佐天「え、えーと、だからその大丈夫なんで! そりゃ確かにちょっとテンション下がってましたけどほんと平気なんで……」 黄泉川(何か元気付けてやれるようなことがあれば……そうじゃん!) 佐天「……あの、聞いてますか?」 黄泉川「お前、佐天だったか? 明日暇じゃんよ?」 佐天「……はい?」 翌日、黄泉川のマンション前 佐天(で、何で私はここに居るんだろう……) 佐天(いや、あの後強引に明日うちに来いって押し切られたんだけどさぁ) 回想~ 黄泉川「うちに能力開発に詳しい居候がいるじゃんよ」 黄泉川「口も目付きも悪い奴だけど、あれでなかなか面倒見のいい所があったりするじゃんよ」 黄泉川「だから明日うちに来て相談してみるといいじゃんよ?」 ~回想終わり 佐天(まあ、ダメ元で相談するくらいなら、ね……?) 黄泉川の部屋 一方通行「で? 誰だオマエ」ギロ 佐天「ひぃ!?」ビクビク 黄泉川「一方通行、初対面の相手にそれは可哀想じゃんよ」 一方通行「あァ!? そもそも何で俺がこんなガキの相談相手なンざしなきゃならねェンだ」 黄泉川「だってお前霧ヶ丘付属に在籍してたぐらいの能力開発のスペシャリストじゃん?」 佐天(霧ヶ丘付属って常盤台とか長点上機とかと張り合えるぐらいのエリート校じゃ!?) 一方通行「オマエなァ……本人のレベルの高さと能力開発カリキュラムへの詳しさなンつゥもンは別もンだろうがよォ」 黄泉川「もうすぐ身体検査じゃん? この子、なかなかレベルが上がらなくて自信が無いんじゃんよ」 一方通行「人の話聞いてますかねェえ!?」 一方通行「チッ、おい」 佐天「は、はは、はい! 何ですか!?」オドオド 一方通行「オマエのレベルは? それと何の能力だ?」 佐天「う……その、」 一方通行「あン?」ギロ 佐天「ひっ、ぜ、0です! 私、無能力者(レベル0)ですぅ!」 一方通行「……はン、話にならねェな」 佐天「うぅ……やっぱり才能が無いんじゃどうしようもないですよね……」ショボーン 一方通行「ったく、0に何掛けても0だろうが。こんなんあのクソガキでも分かる簡単な計算だろうがよォ」 一方通行「黄泉川、一体何考えてこんな雑魚連れてきてンですかァ?」 佐天(ざ、雑魚って……何もそこまで言わなくても)ウルッ 黄泉川(いくらなんでも言い過ぎじゃんよ!?)ヒソヒソ 一方通行(何でこの俺がそこまで気をつかわなきゃならねェンだよ!?)ヒソヒソ 一方通行「……別に能力なンてあったからどうなるってもンでもねェだろ」 佐天「……ふぇ?」グス 一方通行「無能力者ってこたァ変なしがらみも責任も何も無ェって話だよ」 一方通行「下手なレベルの能力者よりよっぽど気楽だぜェ?」 佐天(……もしかして、フォローしようとしてしてくれてる?) 一方通行「そ、そォ、だからその……アレだ」 佐天(見た目は凄い怖い感じだけど……実は結構イイ人?) 一方通行「自分のペースでやるのがイインじゃねェの? ……多分」 佐天(そういえば黄泉川先生も実は面倒見のいい人だとか言ってたような……) 一方通行「あァー、なんだ、その……」 一方通行(なンだ? なンでこンなことになってンですかァ?) 佐天「そ、そうですよね、変に焦ったりするのはやっぱり良くないですよね」フフッ 一方通行「お、おォ」 佐天「あーあ、やっぱりダメだなぁ私。前にも色んな人に迷惑掛けて、心配掛けて……」 佐天「私、前に幻想御手(レベルアッパー)を使ったことがあるんです」 一方通行「……あン?」 佐天「能力が使えるようになったってことに舞い上がっちゃって」 佐天「初春……あ、その子は私の親友なんですけど、他にも御坂さんとか白井さんとかにまで迷惑掛けちゃって……っていきなりこんなこと言っても誰だか分からないか」 一方通行「おい、今なンつった?」 佐天「へ?」 一方通行「なンつったって聞いてンだろうがよォ!」 佐天(えぇー!? なんでいきなり怒ってんのー!?) 佐天「ごご、ごめんさない! すみませんすみません、本当に反省してるんです!」 一方通行「あァ? 何いきなり謝ってんだオマエ?」 佐天「……あれ? お、怒ってない……?」 一方通行「何に怒れってンだ? それとも単に怒られたいっていう変態さんですかァ?」 一方通行「いいからとっとと自分が言ったことをもう一度繰り返しやがれ」 佐天「え、えーと……御坂さんとか白井さんにまで迷惑を、」 一方通行「超電磁砲なンざどうでもいい、もっと前だ」 佐天「私の親友の初春?」 一方通行「もっとだ」 佐天「の、能力が使えるようになって舞い上がっちゃって?」 一方通行「それだ」 佐天(……ど、どれ?) 一方通行「ったく、それを早く言えってンだよ」 佐天「あ、あの? 話がよく……」 一方通行「さっき言ったばかりだろうが」 一方通行「0には何掛けても0なンだよ。才能が皆無だったら幻想御手でも能力は発現しねェ」 佐天「え、えーと?」 一方通行「0.5だか0.1だかしらねェが、オマエにはもうちゃンと能力があるっつゥことだ」 佐天「……え、えぇぇええーー!?」 一方通行「こォいう大事なことは先に言っとけ、黄泉川」 黄泉川「一方通行が勝手に話を進めたんじゃんよー」 佐天「わ、私にも能力がある……」 佐天「え、うそ、ほんとに……?」 一方通行「だからそォ言ってンだろうがよォ」 一方通行「おい、幻想御手で能力使ってた時のことは覚えてンのか?」 佐天「あ、た、多少は……」 一方通行(……自信さえ持てれば少しはマシになりそォだな、このガキ) 一方通行(問題はどォやって自信を付けさせるか。切欠なンざ何でもいいンだが……) 一方通行「黄泉川、あのパンまだあったよな?」 黄泉川「あのパンって、どのパンじゃん?」 一方通行「このあいだ打ち止めが面白半分で買ってきたあのパンだ」 黄泉川「あー、あのサプリがいろいろ入ったやつじゃん?」 黄泉川「何、お腹でも空いたじゃん?」 一方通行「なンで俺が食べンだよ。こいつが食うに決まってンじゃねェか」 佐天「はい?」 黄泉川「つうわけだから、はいこれ」 佐天「……脳を活性化させる十二の栄養素が入った能力上昇パン……?」 佐天(ええー……これ、効果あるの??) 黄泉川(つかあのパン効果あったんじゃん?)ヒソヒソ 一方通行(あァ? あるわけねェだろォがボケ。まあ見てろ)ヒソヒソ 佐天「あの、こんなパンで本当に効果が……?」 一方通行「ハッ、これだから無能力者は……」ヤレヤレ 佐天(そんなに大げさに呆れるほどなのー!?) 佐天(効果が無いことで有名なこのパンにまさかのレベルアップの秘密が……!?) 一方通行「能力の土台になるのは自分だけの現実(パーソナルリアリティ)だっつうことくらいは分かってンだよな?」 佐天「ど、どうにか……」コクコク 一方通行「じゃあ聞くがよォ、自分だけの現実てな一体何だ?」 佐天「……うぐ、や、その辺あんまりよくは……」 一方通行「チッ、まあそんなこったろォとは思ってたが……」 佐天(う、うぅ、何このプレッシャー) 一方通行「いいか、簡単に言うと信じることだ」 佐天「信じること……」 一方通行「思い込みなンて言い換えてもいい」 佐天(あ、なんか初春もそんなようなこと言ってたような……) 一方通行「自分は能力が使える、能力が使えて当たり前、そォいうのが最初の一歩なわけだ」 佐天「ふむふむ……」 一方通行「自分の能力を信じられねェ奴に能力は使えねェ」 一方通行「っつうわけでこのパンだ」 佐天(いや、だからどんなわけでこのパン!?) 一方通行「サービスだ、先に言っておいてやる。このパン、効果あンぞ」 佐天「マジですか!?」 一方通行「なァオイ、そこの黄泉川のこと、どの程度知ってンだ?」 佐天「えぇ? あー、いや、特別講習の時に少しお世話になったくらいで……」 一方通行「じゃあこいつは人を騙すような人間だと思うか?」 佐天「い、いえ。そんなことは無いんじゃないかなぁって」 一方通行「なら俺は?」 佐天「はいぃ? や、えーと、黄泉川先生が紹介してくれた人だし、その……」 佐天(え、何、何でいきなりこんな会話? さっきまでこのパンの話だったよね!?) 一方通行「十分だ」ニィ 一方通行「てめェが自分を信じられない、自信が持てないってンなら……」 一方通行「……この俺を信じろ」 佐天「あ……は、はい……」 一方通行「じゃあ食え」 佐天「へ? あ、ああはい、えと、いただきます……」モグモグ 一方通行「ついでに脳波計るからちょっと頭こっち貸せ」カチ 佐天「ふぁ、ふぁい」モグモグ 佐天(手をかざすだけで脳波が計れるなんてどういう能力なんだろ……)モグモグ 一方通行(さて、これで準備はいいな……)キィーン 佐天(……あ、でもなんか落ち着いてきたかも……このパン、実はすごかったりして) 一方通行「よし、それじゃ幻想御手使ってた時のことをよく思いだせ」 佐天「はい」 佐天「…………むむむ……」 フワッ 佐天「あ!?」 一方通行「やりゃァできンじゃねェか」ニヤ 佐天「うわ、うわ! え、うそ!? 本当に!?」 ソヨソヨ 一方通行「ま、その辺の扇風機のがなンぼかマシそうだけどなァ」 佐天「うぅ……た、確かに……パンの包装を吹き飛ばすので精一杯かも」 黄泉川「団扇にも負けるレベルじゃんな」 黄泉川「でも、使えてるじゃん? これならレベル1認定は確実じゃんよ」 佐天「はい! ありがとうございます!」 佐天「全然弱いけど、ちゃんと風が吹いてる……幻想御手も使ってないのに、能力が使えてる……!」ウルッ 佐天「本当になんてお礼を言ったらいいか……」グス 一方通行「ハッ、泣いてる暇があったらとっとと帰りやがれ」 一方通行「……でもって感触を忘れないうちに練習しておくんだな」 佐天「はい! 身体検査までに完璧に使えるようにしてみせます!」 ※佐天帰った 黄泉川「で、一体どうやったんじゃん?」 一方通行「あン? 何の話だ?」 黄泉川「さっきあの子に能力を使ってたじゃんよ」 一方通行「別に、何もしちゃいねェよ」 一方通行「ちょいと脳内の分泌物の流れを操作して集中力を高めてやっただけだ」 黄泉川「うん? それだけじゃん?」 一方通行「幻想御手で能力が出たっつってたろォが」 一方通行「後は演算力を底上げすりゃ勝手に発現すンに決まってる」 黄泉川「でもそれじゃあすぐに元通りじゃん?」 一方通行「この俺を誰だと思ってやがる? だからあのパンなんだろうが」 黄泉川「でもあのパン、ただのパンなんじゃん?」 一方通行「俺らにとってはな」 黄泉川「?」 一方通行「プラセボ……プラシーボ効果っつったほォが通りがいいか?」 黄泉川「ああ、あのただの錠剤を風邪薬って言って飲ませると本当に風邪が治るってやつじゃん?」 一方通行「要はそれと同じことだ。あのガキが信じてる限りあのパンは集中力を高める効果を発揮するってわけだ」 一方通行「そのうち脳が能力の使い方を覚えちまえば、パンが無かろォがいつでも自由に能力が使えるようになってるってわけだ」 黄泉川「へぇ~、さっすが学園都市の第一位じゃん? 十分能力開発に詳しいじゃんよ」 一方通行「おだてたってもう二度とやンねェからなこンなこと」 後日 佐天「うっい春~~!」ブワサッ 初春「ひゃあぁああ!?」 初春「だからスカートを捲らないでっていつも言ってるじゃないですか!」 佐天「そんなことよりこれ見てよこれ!」 初春「そ、そんなこと!? ……って、これ身体検査の結果じゃないですか」 佐天「じゃじゃーーん!」 初春「あ、ああぁぁーー!」 更に後日、ファミレス 美琴「佐天さんが能力者(レベル1)になったって本当なの!?」 佐天「ぬふふー、とうとう私も能力者の仲間入りですよ」 初春「団扇にも負けるくらいの微風を起す程度の能力ですけどねー」 佐天「こら初春、そんなこと言っちゃう子は……こうだぁ!」ブワサッ 初春「だから捲らないで下さいー//////」 黒子「なるほど……捲り上げる時に風を起すことでより勢いよく、かつふんわりとスカートを、というわけですのね」 佐天「まさに私と初春のためにあるような能力だよね!」 初春「何言っちゃってるんですか!?」 美琴「でも良かったじゃない」 初春「良くないですよ!」 美琴「あ、いやそうじゃなくてさ、佐天さんの努力がやっと実ったってことでしょ?」 初春「あー、まあそれに関しては……」 佐天「えへへ、なんか御坂さんにそう言われると照れちゃいますね///」テレテレ 黒子「誰が何と言おうと、佐天さん自身の能力なのですから、もっと胸を張りなさいませ」 美琴「や、別に胸は張らなくてもいいんじゃないかな」 初春「ほんと、身体検査の日からずっと浮かれっぱなしなんですから……」 初春「これで後は素敵な誰かさんに振り向いて貰えれば言うこと無しですかねー?」 佐天「ちょ、初春それは内緒って約束でしょ!?」 黒子「ほほう? これは何やら恋バナの予感ですの」 美琴「へぇー? 急な能力の成長の裏にそんな話がねぇ?」 佐天「や、だからそんなんじゃないですってば!///」 佐天(うぅ、『これ以上ガキの世話なんて御免だからな』って口止めされてるんだよね……) 美琴「ねえねえ、どんな人なの?」 佐天「ほ、ほんとにダメですって、内緒なんです」 初春「この調子で、肝心なところははぐらかすんですよー?」 黒子「あらあら、それは是非聞き出さないといけませんわねぇ?」 佐天(ま、まずい流れに……ど、どど、どうしよう……!?) 佐天「こ、こっから先は一方通行だァ!?」※テンパってます 美琴「えぇー!?」 黄泉川「ジャッジメントとかもいいけどカウンセラーとかも向いてるじゃん?」 一方通行「寝言は寝てから言うンだな。俺ァもう寝るぞ」 黄泉川「ところで、『俺を信じろ』のところでちょっと言い淀んでたじゃん?」 一方通行「……別に、何でもねェよ」 一方通行(思わず三下の言ってたようなことを口走りそうになったなンて言えるか!) おしまい
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1578.html
放課後、学校帰り 佐天「はぁ、来週は身体検査(システムスキャン)かぁ……」 佐天「どうせまたレベル0って判定されちゃうんだと思うと気が重いなぁ」トボトボ 黄泉川「んー? 憂鬱そうな学生が居ると思えばいつだかの講習生じゃん」 佐天「え?」 カクカクシカジカ 黄泉川「なるほど、事情は大体分かったじゃん」 黄泉川「何をクヨクヨしてるかと思えば……あの講習で少しはマシになったかと思ってたじゃんよ」 佐天「いや、別にまた後ろ向きになってるとかじゃないんですよ?」 佐天「ただ、こう、ハッキリと0って数字を見せられるとどうにもへこむというかなんというか」 黄泉川「まあ、一理有るのは認めるじゃんよ」 黄泉川(小萌先生ならこう言う時何か上手いアドバイスでも出来るんじゃんよ……) 黄泉川(けど生憎私は能力開発はそれほど詳しく無いじゃん) 佐天「え、えーと、だからその大丈夫なんで! そりゃ確かにちょっとテンション下がってましたけどほんと平気なんで……」 黄泉川(何か元気付けてやれるようなことがあれば……そうじゃん!) 佐天「……あの、聞いてますか?」 黄泉川「お前、佐天だったか? 明日暇じゃんよ?」 佐天「……はい?」 翌日、黄泉川のマンション前 佐天(で、何で私はここに居るんだろう……) 佐天(いや、あの後強引に明日うちに来いって押し切られたんだけどさぁ) 回想~ 黄泉川「うちに能力開発に詳しい居候がいるじゃんよ」 黄泉川「口も目付きも悪い奴だけど、あれでなかなか面倒見のいい所があったりするじゃんよ」 黄泉川「だから明日うちに来て相談してみるといいじゃんよ?」 ~回想終わり 佐天(まあ、ダメ元で相談するくらいなら、ね……?) 黄泉川の部屋 一方通行「で? 誰だオマエ」ギロ 佐天「ひぃ!?」ビクビク 黄泉川「一方通行、初対面の相手にそれは可哀想じゃんよ」 一方通行「あァ!? そもそも何で俺がこんなガキの相談相手なンざしなきゃならねェンだ」 黄泉川「だってお前霧ヶ丘付属に在籍してたぐらいの能力開発のスペシャリストじゃん?」 佐天(霧ヶ丘付属って常盤台とか長点上機とかと張り合えるぐらいのエリート校じゃ!?) 一方通行「オマエなァ……本人のレベルの高さと能力開発カリキュラムへの詳しさなンつゥもンは別もンだろうがよォ」 黄泉川「もうすぐ身体検査じゃん? この子、なかなかレベルが上がらなくて自信が無いんじゃんよ」 一方通行「人の話聞いてますかねェえ!?」 一方通行「チッ、おい」 佐天「は、はは、はい! 何ですか!?」オドオド 一方通行「オマエのレベルは? それと何の能力だ?」 佐天「う……その、」 一方通行「あン?」ギロ 佐天「ひっ、ぜ、0です! 私、無能力者(レベル0)ですぅ!」 一方通行「……はン、話にならねェな」 佐天「うぅ……やっぱり才能が無いんじゃどうしようもないですよね……」ショボーン 一方通行「ったく、0に何掛けても0だろうが。こんなンあのクソガキでも分かる簡単な計算だろうがよォ」 一方通行「黄泉川、一体何考えてこんな雑魚連れてきてンですかァ?」 佐天(ざ、雑魚って……何もそこまで言わなくても)ウルッ 黄泉川(いくらなんでも言い過ぎじゃんよ!?)ヒソヒソ 一方通行(何でこの俺がそこまで気をつかわなきゃならねェンだよ!?)ヒソヒソ 一方通行「……別に能力なンてあったからどうなるってもンでもねェだろ」 佐天「……ふぇ?」グス 一方通行「無能力者ってこたァ変なしがらみも責任も何も無ェって話だよ」 一方通行「下手なレベルの能力者よりよっぽど気楽だぜェ?」 佐天(……もしかして、フォローしようとしてしてくれてる?) 一方通行「そ、そォ、だからその……アレだ」 佐天(見た目は凄い怖い感じだけど……実は結構イイ人?) 一方通行「自分のペースでやるのがイインじゃねェの? ……多分」 佐天(そういえば黄泉川先生も実は面倒見のいい人だとか言ってたような……) 一方通行「あァー、なんだ、その……」 一方通行(なンだ? なンでこンなことになってンですかァ?) 佐天「そ、そうですよね、変に焦ったりするのはやっぱり良くないですよね」フフッ 一方通行「お、おォ」 佐天「あーあ、やっぱりダメだなぁ私。前にも色んな人に迷惑掛けて、心配掛けて……」 佐天「私、前に幻想御手(レベルアッパー)を使ったことがあるんです」 一方通行「……あン?」 佐天「能力が使えるようになったってことに舞い上がっちゃって」 佐天「初春……あ、その子は私の親友なんですけど、他にも御坂さんとか白井さんとかにまで迷惑掛けちゃって……っていきなりこんなこと言っても誰だか分からないか」 一方通行「おい、今なンつった?」 佐天「へ?」 一方通行「なンつったって聞いてンだろうがよォ!」 佐天(えぇー!? なんでいきなり怒ってんのー!?) 佐天「ごご、ごめんさない! すみませんすみません、本当に反省してるんです!」 一方通行「あァ? 何いきなり謝ってんだオマエ?」 佐天「……あれ? お、怒ってない……?」 一方通行「何に怒れってンだ? それとも単に怒られたいっていう変態さんですかァ?」 一方通行「いいからとっとと自分が言ったことをもう一度繰り返しやがれ」 佐天「え、えーと……御坂さんとか白井さんにまで迷惑を、」 一方通行「超電磁砲なンざどうでもいい、もっと前だ」 佐天「私の親友の初春?」 一方通行「もっとだ」 佐天「の、能力が使えるようになって舞い上がっちゃって?」 一方通行「それだ」 佐天(……ど、どれ?) 一方通行「ったく、それを早く言えってンだよ」 佐天「あ、あの? 話がよく……」 一方通行「さっき言ったばかりだろうが」 一方通行「0には何掛けても0なンだよ。才能が皆無だったら幻想御手でも能力は発現しねェ」 佐天「え、えーと?」 一方通行「0.5だか0.1だかしらねェが、オマエにはもうちゃンと能力があるっつゥことだ」 佐天「……え、えぇぇええーー!?」 一方通行「こォいう大事なことは先に言っとけ、黄泉川」 黄泉川「一方通行が勝手に話を進めたんじゃんよー」 佐天「わ、私にも能力がある……」 佐天「え、うそ、ほんとに……?」 一方通行「だからそォ言ってンだろうがよォ」 一方通行「おい、幻想御手で能力使ってた時のことは覚えてンのか?」 佐天「あ、た、多少は……」 一方通行(……自信さえ持てれば少しはマシになりそォだな、このガキ) 一方通行(問題はどォやって自信を付けさせるか。切欠なンざ何でもいいンだが……) 一方通行「黄泉川、あのパンまだあったよな?」 黄泉川「あのパンって、どのパンじゃん?」 一方通行「このあいだ打ち止めが面白半分で買ってきたあのパンだ」 黄泉川「あー、あのサプリがいろいろ入ったやつじゃん?」 黄泉川「何、お腹でも空いたじゃん?」 一方通行「なンで俺が食べンだよ。こいつが食うに決まってンじゃねェか」 佐天「はい?」 黄泉川「つうわけだから、はいこれ」 佐天「……脳を活性化させる十二の栄養素が入った能力上昇パン……?」 佐天(ええー……これ、効果あるの??) 黄泉川(つかあのパン効果あったんじゃん?)ヒソヒソ 一方通行(あァ? あるわけねェだろォがボケ。まあ見てろ)ヒソヒソ 佐天「あの、こんなパンで本当に効果が……?」 一方通行「ハッ、これだから無能力者は……」ヤレヤレ 佐天(そんなに大げさに呆れるほどなのー!?) 佐天(効果が無いことで有名なこのパンにまさかのレベルアップの秘密が……!?) 一方通行「能力の土台になるのは自分だけの現実(パーソナルリアリティ)だっつうことくらいは分かってンだよな?」 佐天「ど、どうにか……」コクコク 一方通行「じゃあ聞くがよォ、自分だけの現実てな一体何だ?」 佐天「……うぐ、や、その辺あんまりよくは……」 一方通行「チッ、まあそンなこったろォとは思ってたが……」 佐天(う、うぅ、何このプレッシャー) 一方通行「いいか、簡単に言うと信じることだ」 佐天「信じること……」 一方通行「思い込みなンて言い換えてもいい」 佐天(あ、なんか初春もそんなようなこと言ってたような……) 一方通行「自分は能力が使える、能力が使えて当たり前、そォいうのが最初の一歩なわけだ」 佐天「ふむふむ……」 一方通行「自分の能力を信じられねェ奴に能力は使えねェ」 一方通行「っつうわけでこのパンだ」 佐天(いや、だからどんなわけでこのパン!?) 一方通行「サービスだ、先に言っておいてやる。このパン、効果あンぞ」 佐天「マジですか!?」 一方通行「なァオイ、そこの黄泉川のこと、どの程度知ってンだ?」 佐天「えぇ? あー、いや、特別講習の時に少しお世話になったくらいで……」 一方通行「じゃあこいつは人を騙すような人間だと思うか?」 佐天「い、いえ。そんなことは無いんじゃないかなぁって」 一方通行「なら俺は?」 佐天「はいぃ? や、えーと、黄泉川先生が紹介してくれた人だし、その……」 佐天(え、何、何でいきなりこんな会話? さっきまでこのパンの話だったよね!?) 一方通行「十分だ」ニィ 一方通行「てめェが自分を信じられない、自信が持てないってンなら……」 一方通行「……この俺を信じろ」 佐天「あ……は、はい……」 一方通行「じゃあ食え」 佐天「へ? あ、ああはい、えと、いただきます……」モグモグ 一方通行「ついでに脳波計るからちょっと頭こっち貸せ」カチ 佐天「ふぁ、ふぁい」モグモグ 佐天(手をかざすだけで脳波が計れるなんてどういう能力なんだろ……)モグモグ 一方通行(さて、これで準備はいいな……)キィーン 佐天(……あ、でもなんか落ち着いてきたかも……このパン、実はすごかったりして) 一方通行「よし、それじゃ幻想御手使ってた時のことをよく思いだせ」 佐天「はい」 佐天「…………むむむ……」 フワッ 佐天「あ!?」 一方通行「やりゃァできンじゃねェか」ニヤ 佐天「うわ、うわ! え、うそ!? 本当に!?」 ソヨソヨ 一方通行「ま、その辺の扇風機のがなンぼかマシそうだけどなァ」 佐天「うぅ……た、確かに……パンの包装を吹き飛ばすので精一杯かも」 黄泉川「団扇にも負けるレベルじゃんな」 黄泉川「でも、使えてるじゃん? これならレベル1認定は確実じゃんよ」 佐天「はい! ありがとうございます!」 佐天「全然弱いけど、ちゃんと風が吹いてる……幻想御手も使ってないのに、能力が使えてる……!」ウルッ 佐天「本当になんてお礼を言ったらいいか……」グス 一方通行「ハッ、泣いてる暇があったらとっとと帰りやがれ」 一方通行「……でもって感触を忘れないうちに練習しておくンだな」 佐天「はい! 身体検査までに完璧に使えるようにしてみせます!」 ※佐天帰った 黄泉川「で、一体どうやったんじゃん?」 一方通行「あン? 何の話だ?」 黄泉川「さっきあの子に能力を使ってたじゃんよ」 一方通行「別に、何もしちゃいねェよ」 一方通行「ちょいと脳内の分泌物の流れを操作して集中力を高めてやっただけだ」 黄泉川「うん? それだけじゃん?」 一方通行「幻想御手で能力が出たっつってたろォが」 一方通行「後は演算力を底上げすりゃ勝手に発現すンに決まってる」 黄泉川「でもそれじゃあすぐに元通りじゃん?」 一方通行「この俺を誰だと思ってやがる? だからあのパンなンだろうが」 黄泉川「でもあのパン、ただのパンなんじゃん?」 一方通行「俺らにとってはな」 黄泉川「?」 一方通行「プラセボ……プラシーボ効果っつったほォが通りがいいか?」 黄泉川「ああ、あのただの錠剤を風邪薬って言って飲ませると本当に風邪が治るってやつじゃん?」 一方通行「要はそれと同じことだ。あのガキが信じてる限りあのパンは集中力を高める効果を発揮するってわけだ」 一方通行「そのうち脳が能力の使い方を覚えちまえば、パンが無かろォがいつでも自由に能力が使えるようになってるってわけだ」 黄泉川「へぇ~、さっすが学園都市の第一位じゃん? 十分能力開発に詳しいじゃんよ」 一方通行「おだてたってもう二度とやンねェからなこンなこと」 後日 佐天「うっい春~~!」ブワサッ 初春「ひゃあぁああ!?」 初春「だからスカートを捲らないでっていつも言ってるじゃないですか!」 佐天「そんなことよりこれ見てよこれ!」 初春「そ、そんなこと!? ……って、これ身体検査の結果じゃないですか」 佐天「じゃじゃーーん!」 初春「あ、ああぁぁーー!」 更に後日、ファミレス 美琴「佐天さんが能力者(レベル1)になったって本当なの!?」 佐天「ぬふふー、とうとう私も能力者の仲間入りですよ」 初春「団扇にも負けるくらいの微風を起す程度の能力ですけどねー」 佐天「こら初春、そんなこと言っちゃう子は……こうだぁ!」ブワサッ 初春「だから捲らないで下さいー//////」 黒子「なるほど……捲り上げる時に風を起すことでより勢いよく、かつふんわりとスカートを、というわけですのね」 佐天「まさに私と初春のためにあるような能力だよね!」 初春「何言っちゃってるんですか!?」 美琴「でも良かったじゃない」 初春「良くないですよ!」 美琴「あ、いやそうじゃなくてさ、佐天さんの努力がやっと実ったってことでしょ?」 初春「あー、まあそれに関しては……」 佐天「えへへ、なんか御坂さんにそう言われると照れちゃいますね///」テレテレ 黒子「誰が何と言おうと、佐天さん自身の能力なのですから、もっと胸を張りなさいませ」 美琴「や、別に胸は張らなくてもいいんじゃないかな」 初春「ほんと、身体検査の日からずっと浮かれっぱなしなんですから……」 初春「これで後は素敵な誰かさんに振り向いて貰えれば言うこと無しですかねー?」 佐天「ちょ、初春それは内緒って約束でしょ!?」 黒子「ほほう? これは何やら恋バナの予感ですの」 美琴「へぇー? 急な能力の成長の裏にそんな話がねぇ?」 佐天「や、だからそんなんじゃないですってば!///」 佐天(うぅ、『これ以上ガキの世話なンて御免だからな』って口止めされてるんだよね……) 美琴「ねえねえ、どんな人なの?」 佐天「ほ、ほんとにダメですって、内緒なんです」 初春「この調子で、肝心なところははぐらかすんですよー?」 黒子「あらあら、それは是非聞き出さないといけませんわねぇ?」 佐天(ま、まずい流れに……ど、どど、どうしよう……!?) 佐天「こ、こっから先は一方通行だァ!?」※テンパってます 美琴「えぇー!?」 黄泉川「ジャッジメントとかもいいけどカウンセラーとかも向いてるじゃん?」 一方通行「寝言は寝てから言うンだな。俺ァもう寝るぞ」 黄泉川「ところで、『俺を信じろ』のところでちょっと言い淀んでたじゃん?」 一方通行「……別に、何でもねェよ」 一方通行(思わず三下の言ってたようなことを口走りそうになったなンて言えるか!) おしまい
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/555.html
学園都市第二学区 「では、始め!」 静かな部屋に、紙をめくる音とシャーペンのノック音が響く。 ここは第二学区の風紀委員訓練所。 今は臨時風紀委員の希望者試験の真っ最中で、この部屋では適性試験が行われていた。 特に難しくはない、小学生でも解ける問題を時間内にいかに多くできるかというものだ。 (んー変に集中力使うから嫌なのよね、こういうの) 美琴は盛んにシャーペンを動かしながら思う。 (っと…集中集中) この手の試験は試験中にどうでもいい事を考えるとペースが乱れてしまう。 この後の試験内容も気になるが、とにかく今ある問題を解くことに集中した。 「やめ!各自答案を提出した後、次の試験会場に向かってください。お疲れ様でした」 「くぁー」 生徒達は手早く身支度をするが、美琴は椅子で伸びをする。 周りの顔ぶれは強力な能力者が多いためか、美琴も何度か雑誌の記事などで見たことのある人もいた。 「あら、御坂さんもいらしてたの?」 う、と美琴は苦虫を噛み潰したような顔に変わる。 この頭に響く声、癇に障る話し方、そしてバサリという扇子を開く音を同時に奏でる者は一人しかいない。 「婚后さんも来てたんだ…アハハ、偶然」 必死に作り笑いをする美琴。 婚后は美琴の手を取り 「私達、常盤台にかかればこんな試験チョロいもんですわよねー さらりとジャッジメントになって、さらりと事件を解決してみせましょう!」 おーほっほっほ、と高笑いする婚后。 周りの視線が痛い。 「あ、それじゃぁ私こっちの試験会場だから!また後でねっ!」 半ば逃げるように美琴は走って次の試験会場へ向かった。 幸い、婚后は別の試験会場だったようだ。 「次は体力と能力テストを行います。各自ウォーミングアップしてください!」 試験監督の声が響く。 「っと…まずは着替えないとね」 キョロキョロと辺りを見回して、更衣室を探す。 と、その時遠くから─パン、と乾いた音が響いた。 「銃声?」 その後何度も響く銃声。 美琴は少し嫌な予感がしたが 「今のなに~?」 「アンチスキルだよ、訓練所が隣みたいだし」 という他の生徒達の会話を聞いて安堵した。 周りの生徒達も銃声に気付いたようだが、特に焦る様子も無い。 実は何も知らないで冷や汗を掻いていた自分は恥ずかしいのかもしれない、と少し落ち込む。 「アンチスキル…か」 銃声のするほうを見ると、こことあまり変わらない建物が並んでいた。 そして今美琴がいる風紀委員訓練所の運動場と 警備員訓練所の運動場は隣接していて、コンクリートの壁一枚で区切られているようだ。 美琴はその区切りのための壁際を歩いているので、 壁の向こうからはランニングをしているであろう足音と、大人の男性であろう太い声で「1.2.1.2」と掛け声が聞こえていた。 そして 『ダッシュじゃん!チンタラ走るんじゃない!』 拡声器を使っているのか、風紀委員の運動場まで女性の声がしっかりと響く。 おぉ、という掛け声の後、聞こえてくる足音が一際大きくなった。 「うっわー超体育会系ね… 志願制だからいいけど、徴兵制なら不幸ってもんじゃないわね」 美琴は治安を維持してくれている部隊の日頃の努力に感謝しつつ、更衣室へ向かった。 警備員訓練所 「ダッシュじゃん!チンタラ走るんじゃない!」 拡声器によって黄泉川の声が運動場に響く。 「ふ、ふこ…」 走る上条はいつもの口癖を叫びかけて飲み込む。 自分が選んだ道だ、不幸などと言ったら黄泉川に鉄拳制裁を喰らいかねない。 なんとか訓練の一つ、走り込みを何人かの隊員とやり遂げた上条は、地面に座り込んだ。 「うへぇ~」 情けない声を出してスポーツドリンクの入ったボトルを傾ける。 座り込む上条に対し周りの隊員は足早に去っていく、これから各々の判断で訓練をするようだ。 そんな隊員を労いながら、黄泉川が近づいて来た。 「なんだ、もうバテたじゃん?」 「いえいえ…これくらい平気ですのよ」 強がってみたのが仇となった。 「そうか、じゃぁこの後逮捕術を含めた柔道と警棒術、射撃訓練を入れるじゃん」 え、と愕然とする上条を見ないで、黄泉川は独り言のように続ける 「なんたって急だからね、 とりあえずアンチスキルになるための訓練一通り受けてもらわないといけないから、まだまだ忙しいじゃん」 「ふ、ふ…ふこ」 また言いかけて飲み込む。 黄泉川はそんな上条に気付かないで腕を引く。 「じゃーまずは柔道場行くじゃん」 半ば引き摺られるように上条は連れて行かれた。 「状況はどうだ…?」 アレイスターはいつもと変わらず逆さに浮いた状態で問う。 「言わなくてもわかっているだろう」 それに対峙するのは土御門。 いつもここにいる時は不機嫌そうだが、今日はいつも以上にそう見える。 アレイスターは静かに笑い。 「他人の感情まではわからないからな…」 「わからなくても、幻想殺しの性格を考えると答えは導き出せるだろう?」 アレイスターは黙りこむ、しかし不気味な笑みは絶やさない。 土御門は奥歯を噛み締めてから言った。 「超電磁砲に関しても同じだ。人の厚意を…」 睨まれてもアレイスターは表情を崩さない。 そして土御門の意見に反応することなく、自分のペースで話す。 「いかなる場合もプランに変更は無い。 これだけは、必ず阻止せねばならない」 言うだけ無駄だ。そう思った土御門は舌打ちを一つすると、くるりと踵を返し歩き出す。 途中立ち止まり、アレイスターに背を向けたまま小さく言った。 「これで、最後にすることだな」 そのまま土御門は部屋から消えた。 アレイスターは表情を変えず目線だけを動かす。 すると、近くのディスプレイにウィンドウが表示された。 そのディスプレイを見ながら、アレイスターは少し上がっていた口の端をさらに上げた。 「じゃ、始めるじゃん」 サイズの合っていないブカブカの柔道着を着た上条は、黄泉川と対峙していた。 「あのーもしかして黄泉川先生が相手なんでせうか?」 黄泉川は構えたままキョトンとした顔になる。 「何か問題あるじゃん? もしかして、私が女だからってナメてるんじゃないだろうね?」 「いや、そういうわけでは…」 そう言いながら、上条は黄泉川の全体像を見る。 上条と同じように柔道着を着た黄泉川、あちらもサイズが合っていないようだ。 だが、上条とは逆でどうも向こうは柔道着のサイズが小さい。 特に胸周り。 いつも以上に強調され、谷間が見えている。 (女性の柔道選手って中にシャツを着てるよな… あれ絶対着てないよな着てないよね着てません三段活用) いや、と上条は考え直す。 いくらなんでもそれは無防備すぎないかと、結局はこうして期待させておいて、 いざはだけたら、残念実はギリギリのシャツを着てましたというパターンかもしれない。 そうだ、きっとそうだろう、難しく考えるな上条当麻。 と上条は強引に自分を納得させた。 上条がおもむろに構えると 「じゃ、いくじゃん!」 そう言って黄泉川がすぐに柔道着の胸あたりを掴んできた。 そのままバランスを崩され、倒されそうになる。 「ちょっ…わわわ」 倒れないように必死に踏ん張る上条。 なんとか転倒は逃れることができた。 「ふん、なかなか良い反応じゃん」 「あの、先生」 やる気満々な黄泉川に上条は申し訳なさそうに言う。 「柔道のルールをいまいち知らないのですが…」 「なんだ、簡単じゃん」 黄泉川は上条の胸元を掴んだまま答える。 「背中を付くと負けじゃん!」 上条は足を払われる。 今度は完全に不意打ちだったため、倒れることは確定。 そう判断した上条は、とにかく背中を付けないように転ぼうとする。 「──ッ」 体を捻り、なんとか肩から落ちることができた。 だが 「甘いじゃん!」 そう言って上条は上から押さえ付けられた。 強制的に背中を畳に付けられ、手足を拘束される。 「技が決まらなくてもこうやって寝技ってやつに持ち込んで一定時間抑え込めば一本じゃん」 黄泉川は上条を抑え込みながら言う。 「ほらほら、抜けてみるじゃん」 一方の上条は声を出せないでいた。 原因は黄泉川の胸。 寝技で上に乗る黄泉川の胸が上条の顔を覆い、上条は会話、もとい呼吸ができなくなっていた。 それと同時に、突然のフラグイベントに上条の頭は爆発寸前だった。 酸素は来ない。 それでも悲しきかな男の性、血流の速さは勢いを増す。 そろそろ意識がヤバいと感じたところで、ようやく黄泉川が起き上がった。 寝技の一定時間が過ぎたのだろうか。 「まったく、こんなんじゃ先が思いやられるじゃん」 そう言って黄泉川は溜め息をつく。 「さっさと立つじゃん」 口はもちろん、まぶたも押さえられていたため視界がぼやけてはっきり見えない。 とにかく早くしないと怖いので、立ち上がろうとした。 が 「っとっと…」 不意にバランスを崩し、続けて足がもつれた。 近くに支えは何も無いが、今の上条にそんな思考ができるはずもなく、ぼやける視界で何かに手を伸ばした。 「なっ─」 すると黄泉川の小さな悲鳴が聞こえ、上条が手をついた物も倒れていく。 その瞬間上条は、自分の手に柔道着の感触があると気付いた。 どさり、と結局上条は倒れてしまった。 しかし倒れた時の衝撃は無く、何か柔らかいクッションのような物に受け止められた感じがした。 特に顔のあたり… (このクッション性…というか圧迫感、何か思い出す気が…) そこで上条は少し冷静に考える。 足がもつれた、倒れると思って何かを掴んだ、それは柔道着だった、黄泉川の声が聞こえた、倒れた… 何かを理解した上条は、全身から嫌な汗が出る。 (これは…拳骨ものっ!) などと考えていると、頭の上から声が掛かった。 「いつまで人の胸に顔うずめてるじゃん? ったく赤ん坊じゃあるまいし」 そして、頭を掴まれ引き剥がされた。 また圧迫されたせいで視界がぼやけている、目の前には黄泉川がいるのだろうが、はっきりと見えない。 そこであることに気付く。 (さっき掴んだのが柔道着なら…) 少しずつ視界がクリアになってくる。 「何してる?さっさと立つじゃん」 上条が手を取ろうと視線を上にすると、クリアになった視界に初めに入ったのは黄泉川の腹。 続けてその上に見える大きな丘二つに目が行きかけたところで、上条は目を逸らした。 「どうした?」 黄泉川が怪訝な表情で覗き込んでくる。 「先に柔道着をなおして下さい!」 「あー?アンタも細かいねぇ」 やれやれと言った調子で黄泉川は柔道着をなおす。 なるほど、さっきの悲鳴は自分が柔道着に手を掛けたからではなく、突然自分が倒れてきたことに驚いただけか。 と上条は納得した。 「というか、何で何も付けてないんですか!?」 立ち上がりながら上条は言う。 「何でって…武道で何も付けないのは常識じゃん」 「え…」 じゃぁつまり下もですか? と心の中で思った上条だったが、黄泉川がすでに自分の胸元に手を持ってきているため、慌てて対応する。 柔道のやり方は知らないが、とにかく黄泉川を倒そうと上条も足を払ったりするが。 「うっ…」 強く引っ張ったりすると、また柔道着がはだけそうで怖い。 そして 「甘いじゃん!」 倒されて寝技を掛けられる そうしてまた乳地獄へ陥る上条当麻だった。 (これは言ってもいいですよね。さんはい、不幸だー!) (不幸だ…) 学園都市第三位、電撃姫こと御坂美琴は心の中で呟く。 その原因というのも 「あの、御坂さんですよね!第三位の!」 「私も電撃使いなんです!」 「噂の超電磁砲っての見せてください!」 「レベル5になったまでの経緯を!」 何人もの生徒達に囲まれての質問攻め、かれこれ20分以上はこの状態だ。 試験はいくつもの項目を何人かで行うようで、人数が多いためか待ち時間が長い。 退屈だなぁと思った矢先、近くの生徒に声を掛けられたのが運のツキ。 (はぁ…) 美琴は心の中で溜め息をつく。 「ま、また次の機会にでも。 今日はほら…みなさん試験もあることですし」 普段は使わないような丁寧な言葉で丁寧に断る。 「そんな!御坂さんになんて今後会えるかどうか!」 「アハハ…そんな大袈裟な…」 これは厄介だと思った美琴に救済の手が差し伸べられる。 「次のグループの人、移動して下さい」 試験監督の声が掛かり、美琴とグループの生徒たちがぞろぞろと運動場の中心に集まる。 「あ、ほら私もう行かないといけませんから…」 ラッキーと小さく呟き、美琴も移動する。 同じグループの生徒も会話をしたそうにしているが、試験を気に(美琴はふりを)しているようで、黙り込んでいた。 「試験内容を説明します」 試験監督による説明が始まる。 どうやらこの試験は自分の能力をとりあえずぶっ放せばいいようだ。 (ま、とにかくやってやるしか無いわけだ) 説明を受けた生徒達が各々で準備運動をする中、美琴は一人ぱんぱんと顔を両手で軽く叩く。 (さ、行くわよ御坂美琴!) 「つ、疲れた…」 更衣室のベンチに座りながら上条は呟く。 柔道の後、逮捕術や警棒術も教えてもらい、遅めの昼食を取ったところでこの更衣室へ戻ってきた。 次は射撃訓練らしく、警備員の戦闘服に着替えろと言われたのだが… 「正直体が持ちませんよ…」 体全体がだるい、このまま寝てしまえそうだ。 もちろんそんなことができるわけなく、ノロノロと立ち上がり自分のロッカーを開ける。 紺色の戦闘服を取り出し、ベンチにもう一度座った。 昼食後ということもあり、眠気が濃い。 ぼーっとしていると目が霞んでくる。 「あー…おやす」 「上条!遅いじゃん!」 眠りに落ちかけたところでハッと覚醒する。 「あ、あぁ…今行きます!」 全速力で着替える上条。 ファスナーを首もとまで上げながら出ると、既に着替え終わっていた黄泉川は腕組みをしながら待っていた。 「遅いじゃん! 緊急時にこんなにモタモタしてたら部隊全体が遅れる、そして事件の早期解決ができなくなる。 個人のミスは全体のミスじゃん!わかった!?」 「は、はい…」 厳しい世界だと実感しながら、上条は力無く返事した。 「それじゃ、射撃訓練場に行くじゃん」 先を行く黄泉川の後ろを、上条はふらふらとした足取りでついて行く。 「射撃の経験は?」 歩きながら黄泉川が尋ねる。 「ありませんよ。 というか、俺の年齢で経験がある人もそうそういないと思いますよ」 「そうか」 素っ気ない返事だが、どことなく安心しているように聞こえた。 その時。 ─ズドン と、遠くから聞こえる轟音。 「─ッ」 焦りを見せる上条だが、黄泉川のほうは気にせず歩いたままだ。 「い、今のもアンチスキルの武器の一つなんでしょうか?」 黄泉川の態度に冷や汗を掻きながら上条は尋ねる。 「んー?あぁあれは能力者じゃん」 「え、どうしてまた…」 「近くにジャッジメントの訓練所もあるじゃん。 くわえて、今日は入隊の試験らしい」 その試験で能力をぶっ放しているのか、と上条は納得するが一つの疑問を持つ。 「え、でもジャッジメントってこんな時期に人員募集しませんよね?」 「それが、ジャッジメントにも臨時の人員募集がかかったじゃん」 「やっぱり、例の事件ですか?」 上条の問いに、黄泉川は少し考えてから答える。 「そう。表向きは年末の雑務処理用の募集だけど、資格が大能力者以上、どうみても事件の捜査にあてるためじゃん…っと」 そこで黄泉川は何かを思い出したようで 「そういえばアンチスキル上層部がジャッジメントに正式に捜査協力を依頼してるじゃん。 ま、事件の早期解決を目指すなら必要な措置かもしれないけど…」 トーンダウンする黄泉川。 上条はこの教師がいかに生徒思いであり、今苦しんでいるのかを悟った。 本来自分が全力で護るべき生徒達が、自分達と同じ戦場に送り込まれる。 それでも、生徒達の能力を借りなければ事件解決も難しい。 そんなジレンマにとらわれているだろう。 しかし今の黄泉川はそんなことを思わせない、いつもの黄泉川。 そんな強さを上条は素直に羨ましいと思う。 「さ、着いたじゃん」 黄泉川がある部屋の前で止まった。 今まで施設の中ではカードを挿し込むと開いたが、ここは特に厳重だった。 IDカードを挿し込み、黄泉川が所属部隊と自分の名前を告げ、手のひらを小さなパネルに当てると扉が開く。 中は事務所のような所とガラスで区切られていて、奥から係りの警備員がこちらを見ていた。 「こんにちは黄泉川さん」 微笑む警備員。 初老の男性で、見た目から判断すると「優しい」と感じられる。 「どうも。例の件の…」 黄泉川が言うと、男は何かを理解したようで奥の部屋へ向かった。 しばらくするとアサルトライフルと拳銃を持って帰ってきた。 安全のためかマガジンは抜いてあり、少し間抜けな見た目だ。 「はい、お待たせ」 男がガラスの小窓へ銃を置く。 「これが、アンチスキル正式採用の武器じゃん」 黄泉川はアサルトライフルを手に取り上条へ渡す。 (これが…ライフル…) ずっしりと、鉄の塊特有の冷たさと重量感を感じる。 「はい、マガジン。ゴム弾と実弾ね」 次にマガジンを受け取った黄泉川は、適当にポケットに突っ込んだ。 「以上だよ」 「ありがとうございます。じゃ、次の部屋に行くじゃん」 拳銃を持ちながら、黄泉川は入ってきたのとは別の扉を開ける。 次に入った部屋はもう射撃訓練場だった。 自分達以外には一人の男が練習している。 「銃の細部の説明は割愛するじゃん。 まぁメンテナンスは係の隊員がやってくれるし、アンタに銃自体あまり持たせたくない」 溜め息をつく黄泉川。 「アンタは弾の装填の仕方と撃ち方を覚えること」 黄泉川はポケットからマガジンを取り出し、机の上に並べる。 拳銃とアサルトライフルのマガジンがそれぞれ4つずつ。 マガジンには赤もしくは青のテープが巻かれていた。 「このテープは?」 「青がゴム弾、赤が実弾じゃん。 ゴム弾は非致死性、通常はこれを使うじゃん」 上条は青テープが巻かれたマガジンを手に取り中を見る。 見た目はゴムだが触ってみるとかなり固い。 「ゴムだけど至近距離で撃つと死傷する可能性があるじゃん。 発砲はしっかり考えてからすること」 続いて赤テープが巻かれたマガジンを見ると、そこには銅色の弾が入っていた。 「実弾は許可が無い限り絶対に使わないこと!わかった!?」 「は、はい!」 黄泉川の威圧感に押される上条。 この射撃場に入ってきてから、黄泉川はピリピリしたままだ。 「じゃ、装填方法から教えるじゃん」 かくして射撃訓練が始まった。 上条が射撃訓練を始めたころ、美琴は風紀委員訓練施設内のシャワールームにいた。 「ふー」 心地良い温度に設定されたお湯が身体を優しく包む。 「ま、いつも通りって感じかな」 腕を伸ばしたり回したりしてストレッチをする。 ついでに少しビリビリとしたいところだが、水気のある床を通じて他の所へ電気が行ってしまうので我慢。 ちなみにこのシャワールームは常盤台にあるのと同じようなもので、個室は胸くらいまでの仕切り板で仕切られてある。 「あとは結果を聞くだけか…」 シャワールームに備え付けられてある時計を見ると、針は15時をさそうとしていた。 「そんなに遅くないし、さっさと結果聞いて黒子誘って遊びに行こうかな」 独り言を呟いたつもりだったが 「あら、御坂さん。 合格者はこのあとレクチャーを受ける手筈ですわよ」 「うっ」 まさかと思い隣の個室を恐る恐る見ると、やっぱり婚后光子がいた。 豊満な胸と綺麗な長髪に目を奪われたのは悔しいので認めたくなかった。 とにかく婚后に言われたことを整理する。 「え、レクチャー?」 「そうですわ。 合格!はい明日からよろしく! というわけにはいかないのでしょう」 「えー」 まだ合格したわけではないが、やっぱり受けたからには合格したい。 それでもその後のレクチャーは面倒だ。 「(遅くなるとアイツにも遭遇できないかもしれないし…)」 ごにょごにょと呟く美琴に気づかず、婚后は言う。 「予定では門限より遅くなるそうなので、寮には連絡したほうがいいですわよ」 「うー」 あの寮監に事情を説明するのも面倒だ。 婚后もそのことを考えてか表情が曇っている。 シャワールームの壁に頭をぐりぐりと押し付ける意味不明な行動をしていると、ピンポンパンと案内音が響いた。 『只今より放送にて合格者の発表を行います。なお、結果は正面玄関にも貼り出しています』 数分後二人の少女が一つの携帯に気難しい顔で話しかけていた。 「またハズレじゃん。これじゃ持たせられないな…」 「うー」 上条はぎこちない様子で拳銃を構えていた。 さっきから人の形が書かれた的を狙って発砲しているがなかなか当たらない。 「今は実弾だからマシだけど、ゴム弾になればもっと当たりにくくなるじゃん」 そして実戦ではゴム弾のほうが使用率が高い。 とはいえ、黄泉川の指導にも問題があると上条は思う。 習うより慣れろじゃん。そう言って、弾の装填方法以外は何も教えてくれなかった。 映画やドラマの見よう見真似でやってみるがなかなか当たらない。 一向に上達しない上条を見て黄泉川は小さく溜め息をつく。 「ちょっとトイレ行ってくるじゃん。 まぁアンタならそれ使って妙なことしないだろうから、練習しとくように」 黄泉川はそう言って射撃場から出て行った。 「初めてだから仕方ないのですよ」 上条は自分に言い聞かせるように呟く。 戦うときは拳一つで戦ってきた身なため、銃撃戦など一般人レベルだ。 それでも構え直し引き金を引く。 またハズレ。 上条は構えたまま溜め息をついた。 ちなみにゴーグルはしているが耳栓はしていない。 黄泉川曰く、実戦で耳栓なんて着けないじゃん。らしい。 自分も休憩がてらトイレにでも行こうかと思ったが、後ろから声が掛かった。 「肘を伸ばしすぎだ、肩の力抜いて、自然に肘を曲げる」 「え?」 後ろを振り向こうとしたが、今はアドバイス通りに実践する。 「発砲の直前、息を止めて神経を集中させろ」 言われた通りにする。 (肩の力を抜いて、自然に肘を曲げて…息止め集中、発砲!) 引き金を引いた。 的の胴の辺りではあったが、初めて当たった。 「ほら、当たるだろ」 上条は後ろを振り返る。 そこには自分達より先にここで練習していた警備員の男だった。 「あ、ありがとうございます」 「いいよ。どうせ黄泉川さんのことだ、まともに教えてくれなかったんだろう?」 いたずらっぽく笑う男。 「え、えぇまぁ。 どうせ…って黄泉川先生は、まともに教えない人なんですか?」 「教えない、じゃなくて教えられない。 といったところか」 上条は男から、黄泉川が子供に対しては銃を向けない主義であること、強能力者程度なら暴走能力者でも敵では無いことを聞かされた。 「そ…それは凄いスキルの持ち主で…」 「射撃もうまいんだけどね。 まぁ、本人が使うことが少ないから教えられない感じだな」 おしいんだよな、いろんな所… と男がぼやいているとドアが勢い良く開けられた。 「好き勝手言ってくれるじゃん!才郷!」 才郷と呼ばれた男はギョッとドアのほうを見る。 「あ、あぁ黄泉川さん。 これはアドバイスをしてた結果こうなっただけですよ」 「ほほぅ…それで、私の何がおしいんだって?」 「な、何もありません! それじゃ、俺はあがりまーす」 そそくさと銃器をまとめる才郷。 「俺は警備員第84支部の才郷良太だ。 以後、何かあったら頼むよ」 両手に銃を抱えながらも右手を差し出す才郷。 「あ、上条当麻です」 上条も右手を出し握手する。 「上条って…例の高校生のやつか」 才郷が驚いた表情で黄泉川を見る。 黄泉川は黙ったまま小さく頷いた。 「どうりで若いわけだ、まぁあまり無茶をしないようにな。それじゃ」 そう言いながら才郷は出て行った。 「アイツは84支部で分隊を指揮してるじゃん。今後も現場でよく会うだろう」 良いヤツじゃん、と黄泉川は付け加えた。 「それじゃアドバイス貰ったみたいだし、続きやるじゃん!」 つづく
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/620.html
初春「こ、こないで……!」 初春は地面に落ちた銃を拾い上げた。 佐天涙子が残していった、アグニSSPという小さな拳銃だ。 それを、眼前に迫る黒い影に向けて構える。 そんな豆鉄砲がこの相手に通じるだろうか? おそらく、あの黒い装甲には傷一つ付かないだろう。 それでも、そのくらいしか初春にできることはない。 御坂美琴に電話をかけたがつながらなかった。 人通りなどまったくない廃墟群の真ん中だ。 他の助けには期待できない。 重い金属音を鳴らし、影が迫る。 初春「……っ!」 意を決し、拳銃の引き金を引いた。 一発目、ニ発目を外し、三発目は装甲に弾かれてどこかへ跳ね返った。 恐怖に固まる初春へ、影がその厳つい手を伸ばした。 メタルブラック『好きなだけ恨め。お前にはその権利がある……涙子』 メタルブラックはもはや鋼の侍では無い。 巨大な黒いボディは、まさしく「破壊兵器」と呼ばれるものだった。 【第十一話・激震! シュウザー城の戦い!!】 黄泉川「探せ探せー! どっかその辺にアルカイザーの奴が転がってるはずじゃん!!」 鉄装「よ、黄泉川先生!? まだそうと決まったワケじゃないですよぉ!!?」 警備員たちによるアルカイザー捜索は続いていた。 アラクーネは言った。 「アルカイザーを倒すための計画が進んでいる」 その言葉が事実なら、今こうしている間にも、彼女の身に危険が迫っているかもしれない。 美琴「あいつめ……勝手に死んだりしたら許さないわよ」 美琴は警備員の車両の中で休んでいた。 雨で濡れた髪と体をタオルで拭い、水を吸って重たくなったセーターを脱いだ。 黒子や婚后たちは先に帰した。 黒子はまだ傷が癒えきっていないし、婚后たちの体力は限界だっただろう。 美琴「絶対もう一度会ってやるって決めてるんだから……!」 地下基地での戦いを思い出す。 崩れ落ちる基地の中、美琴たちを逃がし一人残されたアルカイザー。 そんな窮地でもあっさりと生き残った彼女を倒す……? 一体どんな手を……? 鉄装「黄泉川先生! あれ……!!」 鉄装が指差した先から、トボトボと赤い人影が歩いてくる。 背を丸め、雨に打たれながら歩くそのみすぼらしい姿に、鉄装は息を飲んだ。 ともあれ、アルカイザーは無事発見された。 車両に乗せられ、アルカイザーを含めた一行は警備員の詰め所へ向かう。 治療を受けろと勧められたが、アルカイザーは「もう殆ど治ってるから」と断った。 その右手が何かを握り締めている。 美琴「久しぶりね?」 アルカイザー「……そうですね」 美琴「私が入院してた間も活躍してたみたいじゃん?」 アルカイザー「……そうでも、ないですよ」 美琴「ふーん。随分殊勝になったじゃない?」 仮面に隠れて素顔は伺えないが、きっと酷い表情をしているのだろう。 ……今本題を切り出しても大丈夫だろうか? アルカイザー「……」 ……やめておこう。 いまは、ともかく彼女の無事を喜ぼう。 そして―― 美琴「しっかし頑丈ねぇ、あんた。体鍛えてる?」 アルカイザー「……ヒーローですから」 軽口でも叩いて安心させてあげよう。 いつも、友人の「佐天さん」がそうしてくれるように…… 車が到着し、美琴たちは詰め所内にある取調室に入っていった。 アルカイザーに何かの容疑がかかっているわけではない。 まずは美琴たちにだけ話したいと、アルカイザーに頼まれたからだ。 狭い、中心に机が一つ置かれているだけの簡素な部屋。 机に対面して座るのはアルカイザーと黄泉川。 美琴はアルカイザーのすぐ隣に立ち、鉄装が入り口の前で待機している。 安物の机とパイプイスに、全身コスプレの真っ赤な少女が座っているというシュールな光景だが、それを気にするような空気ではない。 黄泉川「さて、色々聞きたいことはあるけど……まずは現状を把握するじゃん」 黄泉川が口火を切る。 黄泉川「まず、お前のその惨状はどういうことじゃん?」 アルカイザー「……怪我は平気です」 黄泉川「それは聞いた。今日何があったのか話せってこと」 アルカイザー「……その前に、一ついいですか?」 黄泉川「何?」 アルカイザー「もし、私が協力して欲しいといったら……警備員は力を貸してくれますか?」 その質問に、黄泉川は大きな溜息をついた。 そして、アルカイザーをキッと睨みつける。 黄泉川「……舐めてるのか?」 アルカイザー「ははは……やっぱり、駄目ですか……」 アルカイザーは自嘲して、背を丸め俯いた。 やっぱり、こんな素性の知れない怪しい人間に心を許してくれるはずが―― そして、ポコン、と頭を叩かれた。 アルカイザー「……?」 黄泉川「アホかお前は? わざわざ聞かなきゃそんなことも分からないんじゃん!?」 アルカイザー「え……」 黄泉川「協力するに決まってるじゃん! 大人は子供を助けるものだろ!!」 そう言いきって、黄泉川はニカッと笑う。 無邪気な笑顔。 ああ……この人は信用できる…… アルカイザー「……分かりました。私の知っていることは、すべてお話します」 黄泉川「おう。こっちも助かるじゃん」 アルカイザー「まず……今一番、急いで取り掛からないといけない問題から……」 黄泉川も美琴も、真剣な表情で話に聞き入る。 入り口前の鉄装も聞き耳を立てている。 少し間をおいて、辛そうに、アルカイザーは話し始めた。 アルカイザー「私の友人……初春飾利が、拉致されました……」 美琴「――――え?」 どうしてその名前が? 予想だにしなかった展開に、美琴は困惑した。 友人……と、アルカイザーはそう言った。 それは、つまり―――― アルカイザー「たぶん、私が身動きを取れないように……」 黄泉川「つまり人質……わっかりやすい悪役じゃん……!」 アルカイザー「これに、連中のアジトの場所が入っているはずです……」 アルカイザーは、右手に大切そうに握っていた物を机の上に置いた。 それは小さなデータチップ。 黄泉川が手にとり、鉄装に調査するよう指示を出した。 アルカイザー「ブラッククロス四天王の、シュウザーという男が残していった物です」 黄泉川「四天王……ていうのは?」 アルカイザー「ブラッククロスの幹部のことです。シュウザーは、そのトップに立ったと……」 黄泉川「ふ……ん。まぁ、間違いなく罠じゃんよ」 しかし―― 黄泉川「行かないワケには行かないじゃん」 当然。 生徒が拉致され人質になっているのだ。 すっかり雨の上がった夜空に、反撃の狼煙が上がる……! 学園都市の深夜。 それは彼らスキルアウトの時間だ。 今日も今日とて、あれだけの騒ぎがあったというのに、雨が上がったとたん街に繰り出してはいつもの溜まり場へ。 「よう。浜面の馬鹿が何かやらかしたって?」 「ああその話か? たしか――」 最近ではブラッククロスの所為で物騒になり、優等生の能力者たちは家から出てこない。 集団で能力者を襲うなどして憂さ晴らししていた彼らは、クスリを流して資金集めをしていたが、それもすっかり下火だ。 けっきょく、こうして暇をもてあまして駄弁るくらいしか、やることは残っていなかった。 「お、おい!! 誰がヘマしやがった!?」 そこへ、一人の少年がドタバタと駆け込んできた。 「あん? どうかしたのか?」 「警備員がこっちに向かって来てるんだよ!」 「ちっ、何かばれたか? それで数は?」 「十……い、いや! 二十だ! それよりもっと多いかも……」 「はぁ!? 二十人だぁ!?」 「何だそりゃ!? 俺達そこまでのことはしてねぇだろ!!?」 「ち、違う……」 「あ?」 「『台』……だ……『二十台』だよ!!」 ウーウーと警笛を鳴らし、薄暗い路地裏へ二十を超える装甲車両の大所帯が突入してきた。 スキルアウトたちは何事が起きたのかも分からず、ただ無我夢中で逃げ出した。 「全隊止まれ!! ここからは徒歩で進行する!!」 装甲車両から、それぞれ十名余りの警備員たちが駆け下りてくる。 隊列を組み、各部隊長の指示の下、軍隊張りの動きで路地裏を駆け抜けた。 全身を隠せる巨大な盾。 腰にはハンドブラスター等の小型兵器。 肩から機関銃を提げ、体力に自身のある者はさらに大型の重火器を背負っている。 美琴「これは……壮観ね……」 まるで戦争映画のワンシーンだ。 荒事に慣れている美琴でも、流石にこれだけ本格的な出撃を見ることはそう無い。 ましてや、その中に自分が含まれることなど、想像もしなかった。 黄泉川「確かにここじゃん?」 鉄装「は、はい! あのデータチップにあった地図をもとに検証しましたが、ここしか出入り口は……」 黄泉川が訝しむのも無理は無い。 その、アジトへの出入り口というのは―― 美琴「……マンホール……ですか?」 そう、マンホール。 小汚い、ただの錆びたマンホールである。 鉄装「だ、だって~! 本当なんですよ~!!」 黄泉川「あ~、分かった分かった! 別に疑って無いじゃんよ!!」 アルカイザー「でも、どうしてここが出入り口になるんですか? ひょっとして敵のアジトは地下?」 鉄装「いいえ地上です……ただ、区画整理がその……滞っていたみたいで……」 佐天が隠れていた廃墟群。 そのさらに奥に、シュウザーの基地は存在した。 たしかに、あの辺りを散策していると行き止まりによく突き当たったが……まさか。 鉄装「ビルとか色んなものに囲まれて、地上からは出入り不可能になってる地帯が……」 そんなマヌケな都市計画があるだろうか……? 鉄装「い、いえ! 勿論最初は通れてたみたいなんですよ!?」 鉄装「でも新しい建物が無計画に乱造されたりとか、この一帯の地盤沈下で人が出て行ったりとかで……」 色々な偶然が積み重なり、結局住むどころか入ることすら出来ない秘境が、学園都市の真ん中に完成していた。 美琴「空からも入れないの?」 黄泉川「ミサイルとかで迎撃されたらやばいじゃん……」 美琴「たしかに……空の上で撃墜されるよりは徒歩の方がましか……」 それにしたって、おそらくは敵の術中にはまっているのに変わりは無いのだろうが…… 黄泉川「……どうでもいいけど。何でお前がそんなに必死に弁護してるじゃん?」 鉄装「いえ、何か……他人事と思えなくて……」 ああ、ドジっぷりが…… 黄泉川「よし! 一人ずつ突入! 道順は覚えてるじゃん?」 ニ百人を超える警備員達が、次々に下水道へと入っていく。 手際がよく、思ったよりも時間は掛からなかった。 黄泉川「私が入ったら、しんがりがお前らじゃん」 そう言って、黄泉川がマンホールの中に消えた。 残されたのは―― 美琴「……」 アルカイザー「……」 この二人。 美琴は焦っていた。 初春との関係を聞きたい。 一人残ったことの文句を言ってやりたい。 そして―― アルカイザー「あの? 先にどうぞ……」 美琴「へ? あ、あぁ……うん」 元気を出せと、そう言って励ましたい。 美琴は下水道へ続く梯子に足をかけた。 どうやって切り出そうか……? 完全にタイミングを逸してしまった。 アルカイザー「……あの、御坂さん」 美琴「な、何よ!?」 ああ、何で切れ気味なのよ…… アルカイザー「ごめんなさい」 美琴「……何が?」 アルカイザー「初春のこと……巻き込んでしまいました」 美琴「……」 この馬鹿。 美琴「アンタの所為じゃないわよ」 アルカイザー「けど……」 美琴「あー……もう!! またそうやってうじうじしてる!!!」 らしくないでしょ? そんなのは―― 美琴「あんたが今やるべきなのは、そうやって悩むことなの?」 アルカイザー「けど……やっぱり……」 美琴「……アルカイザー」 美琴「いま、あんたの目に何が見えてる?」 アルカイザー「――――」 美琴「私はさ。あんたのことも友達だと思ってるのよ?」 それは、御坂美琴と、その親友達の物語の中で―― 美琴「一人で背負い込んでんじゃないわよ。あんたの重荷、半分よこしなさい!」 佐天涙子が、かつて担った役割だった。 アルカイザー「……ははっ!」 美琴「何よ……そんなに可笑しかった……?」 アルカイザー「御坂さん」 美琴「……うん?」 アルカイザー「私、御坂さんのこと好きですよ」 美琴「――なっ!?」 驚いて足を滑らせた。 マンホールの中に真っ逆さま。 美琴「うわぁ!!?」 黄泉川「おっと!?」 しかし、ちょうど下にいた黄泉川が受け止めたおかげで事なきを得た。 黄泉川「……なにやってるじゃん?」 美琴「いえ……何でも……」 黄泉川「いいから、妙なところ触ってないで退くじゃん……」 美琴「はい? ……ふひゃ!?」 自分の手の位置にまた驚いて、美琴は飛び退いた。 アルカイザーが、何事も無かったかのように梯子を無視して飛び降り、見事に着地した。 黄泉川「よし。全員降下したな? 先発部隊がもう先に進んでるから、さっさと合流するじゃん」 さっさと行ってしまう黄泉川とアルカイザー。 その後を、慌てて美琴が追いかける。 美琴(くっそ~……何なのよアイツ~!) 並んで歩く二人を睨みつける。 そして思う。 美琴(……それにしても……う~ん、でかい。二人とも……!!) また借りが増えたような、ただの逆恨みのような…… ……来たか。 「くくく……飛んで火に入る……という奴だ」 それはどうかな? 「なんだ? 不服そうだな?」 ……そんなことは無い。敗者はただ、強者に従うのみだ。 「しかし。アラクーネには失望したよ。まさか消滅させられるとはな」 貴様の作戦に従ったのだろう? 「そうだとも。俺はな、奴ならあの程度は切り抜けると踏んでいたんだぞ?」 どうだかな…… 「くはは! 所詮は、誇りを捨てて科学に頼るような下級妖魔でしか無かったわけだ!!」 貴様の口から誇りなどと…… 「しかし……超電磁砲がそのまま戦線に復帰しているのはまずいな……」 何故だ? 人質がいるのだぞ? 「だからこそだよ……そうだな。手を打っておこう」 ……私が出るか? 「いや。適任がいる」 黄泉川「進めぇ!! びびってんじゃないじゃん!!!」 秘密結社の基地へと続く道程が、容易いはずが無かった。 汚水の中から現れたのは、骸骨の剣士たち。 ボロボロの青いマントを纏い、細身の剣で襲い掛かってくる。 一匹一匹の強さは大した物ではないが、倒しても倒しても無数に現れる、呪われた円卓の騎士団。 黄泉川「二列横隊!! 全隊、前方へ銃構え!!」 部隊長である黄泉川の檄が飛ぶ。 それに従って、彼女の部下十数名がきびきびと隊列を組み替えた。 黄泉川『十字砲火!!』 一斉掃射を受け、骸骨たちがバラバラと砕け散っていく。 粉砕された白骨死体が下水を流されていく様は、何とも形容しがたい空しさがあった。 鉄装「黄泉川先生!? あの管から何か音が……ひゃぁああ!!?」 こんどは、全長数メートルの巨大な芋虫が、下水管の中からヌルリと顔を出した。 B級の洋画にでも登場しそうな、紫色のグロテスクな外見。 ヒルというか、ミミズというか、ナマコというか。大きく口を開け、ダラダラと緑色の粘液を垂れ流している。 黄泉川「うーわ……エンガチョ」 鉄装「言ってる場合じゃないですよぉ!!?」 巨蟲は、そこかしこの下水管から次々に這い出してくる。 黄泉川「骸骨剣士の次は、トレ○ーズじゃん? ここ、ホラー映画のロケに使えそうじゃん!」 巨蟲が体を震わせ粘液を飛ばした。 警備員達は盾に隠れてやり過ごそうとする。 が、強酸性の粘液がその表面を溶かす。 装備が破壊されていき、防具を失った者は後退を余儀なくされた。 黄泉川「ちっ……! 厄介な攻撃じゃん!!」 鉄装「どうします……? 迂回して別の道を……」 黄泉川「そんな時間があるか! このまま突破するじゃん! 全隊突貫!!」 鉄装「ええ!?」 黄泉川「この先に敵の根城があるんだ! 拉致された生徒たちも居るかも知れないじゃん!!」 逃げ腰になった警備員達が、彼女の声に耳を傾けた。 黄泉川「私たちが怖がって逃げていたら、子供を助けられない! それでも聖職者っていえるじゃん!!?」 黄泉川の訴えが通じたのか、警備員達が雄たけびを上げ駆け出した。 ここに居るのはみな、愛する教え子達を守るために命を懸けた者達ばかり。 この程度の妨害に、いつまでも怯んではいられない……! 機関銃が火を噴き、敵の群れに手榴弾が投げ込まれた。 傷ついた男が、仲間の手で助け出され命拾いする。 硝煙と血と汚水の臭いが漂うここは、さながら戦場だった。 無我夢中で戦い抜き、いつしか、彼らは目的地へとたどり着いた。 傷ついた者を帰し、残ったのは半数に満たない。 しかし、彼らはやり遂げた。 ついに、敵の根城への潜入を果たすのだ。 黄泉川「気を抜くなよ……ここから先は、本当に命がけの戦場じゃん」 誰も異議を申し立てる者は居ない。 決意は固い。 マンホールの蓋が開けられ、長い暗闇での戦いを終えた彼らを、月の明かりが迎え入れた。 地上に出た彼らの目に飛び込んできたのは、雨に濡れた夜の街だった。 明かりはついていない。 警備員の一人が、ゴクリと唾を飲む。 荒廃したビルが所狭しとひしめき合い、一つの巨大な要塞に見えた。 その入り口に―― 「ほう、たかが教師の集団がこれほど生き残ったか……大した物だ」 地獄の鬼が立ち塞がっていた。 「まぁ、シュウザーには先に進ませるなと言われている。ここまでだな」 黄泉川「あ、あいつは……!?」 見覚えのあるその鬼の登場に、警備員達はざわめく。 「では始めようか! 有象無象の木っ端ども!!」 勢いよく振り回された豪腕が、隊列の最前列の警備員たちを薙ぎ払った。 大の男たちを軽々と吹き飛ばし、前進を続ける鬼。 黄泉川「う、撃てぇぇぇ!!!!」 その進撃を食い止めようと、無数の弾丸が撃ち込まれた。 だが、それは全て徒労に終わる。 「無駄無駄無駄……! この肉体を、そんな魂の篭らない物が通るものか!!」 黄泉川「やるぞ鉄装!!」 鉄装「は、はい! ……えぇ~い!!!」 黄泉川と鉄装が回り込み、ハンドブラスターに備えられた『パラライザー』を起動した。 それは、いうなれば遠距離用スタンガン。 耳障りな音を立てて、電撃が放たれた。 使えば、どんなに凶暴な悪党でも一網打尽に出来るという優れもの。 が―― 「マッサージか何かか?」 黄泉川「……冗談じゃん?」 その褐色の巨人に、警備員達の持つ装備は通用しない…… 鬼が咆えた。 「このブラッククロス四天王・ベルヴァを倒せるのは、真の戦士のみよ!!!」 ベルヴァ「ふんッ!!」 巨人の強襲をかわそうと、警備員達の隊列が見る見る崩れていく。 先ほどまでの怪人たちとは桁が違う。 そもそも、警備員は街の治安維持がその主な任務だ。 学園都市における警察機構とはいえ、その実態は教職員のボランティア集団だ。 けっして、本職の「戦士」などではない。 このベルヴァが初めて姿を現したあのときも、警備員はただ見ているしかなかった。 何故なら―――― 「皆さん! 下がってください!!」 「ここから先は私たちの出番ってわけね……!」 悪の秘密結社と戦うのは、『ヒーロー』の務めだから。 否。 アルカイザー「さぁ、御坂さん!」 美琴「ええ……行きましょう。アルカイザー!」 この街を救うのは、『ヒロイン達』の役割だ――!! ベルヴァ「アルカイザー! 久しいな!!」 褐色の巨人。ベルヴァは嬉しそうに頬を吊り上げた。 アルカイザーによって粉々に粉砕されたはずの肉体は、彫刻のように完璧なままだ。 アルカイザー「どうしてまだピンピンしてるの……?」 美琴「そうよ。あんたは私の目の前で吹っ飛んだはずでしょ?」 ベルヴァ「何……頭脳パーツさえ回収できれば、後は何とでも再生できるらしい」 警備員によって回収されたパーツは、どこかの研究所が全て引き上げたという。 つまり、それ自体がブラッククロスによるベルヴァの回収だったのか……? ベルヴァ「詳しいことは俺に聞かれても分からんよ。俺はただこの力を楽しむだけだ」 ブラッククロスの計画など、ベルヴァにとっては娯楽の一つに過ぎない。 組織の指示に従いはするが、そこに思惑があるわけではない。 彼はただ、その「悪行」が楽しいからそうしているだけだ。 生き方をブラッククロスに捧げることで、無敵の肉体と無限の命を得ようとした獣。 それがベルヴァという魔物の正体だった。 ベルヴァ「第二ラウンドだアルカイザー!! 今度は決着をつけてやる!!!」 意気込むベルヴァ。 が―― 美琴「ちょろっとー? 私のことは見えてないってわけ?」 ベルヴァ「……むぅ?」 アルカイザー「悪いけどね。もう、そういうノリに付き合ってあげる余裕はないから」 アルカイザーの手に、蒼き光の剣・レイブレードが握られる。 美琴「そういうこと。あんたなんかに構ってる暇無いのよ」 美琴が右手を伸ばし、コインを弾いた。 ベルヴァ「貴様ら……俺を侮辱して―――― 『超電磁ウイング』 レイブレードから放たれた紅い疾風は、超電磁砲に巻き込まれ加速していく。 周囲を切り刻みながら、音速の三倍のスピードでそれは放たれた。 巨人が何か言いかけたが、そんな戯言は、この暴風の前に掻き消される。 そう―― 巨人の肉体ごと、おそらく頭脳パーツさえも粉々に粉砕する、紅い竜巻によって……!! アルカイザー「あんたの出る幕じゃない……!」 美琴「今度はしっかり成仏しなさいよね!」 落ちこぼれのヒーローは、仲間を得た。 【次回予告】 無敵かと思われた美琴とアルカイザー! だが、卑劣な策略が二人を襲う!! そしてシュウザーから告げられる死の宣告!! 果たして、初春を無事助け出すことは出来るのか!? 次回! 第十二話!! 【出現! トワイライトゾーン!!】 ご期待ください!! 【補足】 ・う~ん、でかい。 原作の主人公・レッドの名ゼリフですね。 ・超電磁ウイング。 「超電磁砲+カイザーウイング」のニ連携。カイザーウイングはまだSS未登場でした。 さりげに佐天と美琴の初連携です。 ・ト○マーズ。 名作B級映画。 紫の蟲はラバーウォームというモンスターだったのですが、あの外見をどう説明していいものか……
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/249.html
7 黄泉川の運転する車はとある地下の駐車場で停まった。 学園都市の建物では駐車場はほとんどの場合は地下に作られている。屋根や風雨等の制約も無く、地上に作るよりも遥かに機能的なのだ。きっと、この場所もそうした場所の一つなのだろう。 助手席のドアを開けると、地上よりひんやりとした空気が肌を撫でた。 コンクリートの地面に降り立って黄泉川号によっかかり、 「うぅ、お前の車には二度と乗らない」 心底疲れきった様子で天井が言う。心なしか顔が青い。 黄泉川の運転で激しくシェイクされた胃から、止め処なくもよおす吐き気が天井の頭に相当な不快感を送り込んでいる。 (きもちわるぃぃ゛……) 胃の中に何にも入っていないのが幸いした。中華街で食事をする誘惑を我慢できた自分を少し褒めてやりたい、そんな気分。 と、同時に黄泉川の車に乗った自分を少し責めてやりたい、そんな気分。 天井と黄泉川は、地上へと続くエレベーターの中へと乗り込む。 「何故か私の運転に乗った人間は、みんなそう言うじゃんよ」 黄泉川はそう言うと、慣れた様子でボタンを操作する。押したのは赤い文字で十三階を示す丸いボタン。 針表示の階数時計もだが、学園都市にしては、なんだかレトロな感じがする。 エレベーターの扉は物音一つさせずに閉まる。エレベーターの中はクリーム色に近い配色の照明で明るく照らされていた。どうもこういう配色が好きになれなかった。 まだどこに行くのかも知らされていないのだが、車の中で聞いたとき、黄泉川は答えてくれなかった。 『着けば分かるじゃん』これだけだ。 やがて、これまた静かに動き出すエレベーターの懸架装置。長いエレベーターシャフトの中を天井と黄泉川を乗せた箱が上へと上っていく。 振動はまったく感じられない。が、それでもエレベーター特有の浮遊感はやはり感じてしまうのが車酔いの状態から回復しきっていないので少し堪えた。ぶっちゃけ吐きそうの一歩手前。 「車酔いって、学園都市の科学技術でも何とかならないのだろうか」 「さっき逆月に貰ったの飲めばいいじゃんよ」 「酔い止めは酔う前に飲まないと意味無いだろ……」 なにより、あんな怪しい液体を喉に流し込んで喜ぶ程、天井は自虐的な人間では無い。 例の成分表示の無い実験飲料缶は、未だに天井の学生鞄の中で眠っている。別に取っている訳では無くて、ただ単に捨てる機会が無かっただけである。捨てる機会が無いついでに、使う機会も無ければ、なお一層良いと思う。 何か危険。 幾分か非科学的だが、そんな気配があの缶から滲み出ているような気がする。いうなればトランプのババみたいな何か……。関わらないに越した事は無いと結論付けて、そのまま封印しておこうと心に決めた。 口元とお腹を押さえて吐き気に耐えていると、エレーベーターは目的地へと到着する。 グレネードを撃ち込んでも耐えるという特殊素材のドアが開き、いかにも高級マンションでございますとでも言わんばかりの風景が飛び込んでくる。 長い廊下に並ぶいくつかのドア。やっぱりマンションだ。 「ここって教職員用のマンションじゃないか、」 それならセキュリティのレベルも比較的高く、黄泉川自身もここに住んでいる筈。 「そうじゃん」 ツカツカと歩いていく黄泉川。それ以上の質問に答える気が無いのか、それともわざとか。 ふと、黄泉川の歩みが、ある部屋の玄関の前で止まった。 ドアの表札には住民の苗字なのだろう、三文字の漢字が書かれたプレートが貼り付けられている。天井も良く知っている名前だ。というか黄泉川の方が良く知っている筈である。 「おい、黄泉川」 「しっ、気づかれるじゃんよ」 何に気づかれると言うのか。天井は少々呆れた顔で呟く。 「ここって――」 「しぃぃ。黙って私の後に続くじゃんよ、ほら、壁を背にすると後方の安全は確保できるじゃん、窓の側には立たないのも基本じゃんよ」 その動きはまるで警察や軍隊の特殊部隊の様である。まぁ、警備員もその手の訓練があるのかも知れないが。 「紛争地帯の傭兵か何かか、お前は」 「警備員兼教師&最近は保護者もしてるじゃん」 頷く黄泉川。恐らくだが能力者を相手にする時よりも真剣な顔。 天井、表札のプレートを指差して、続いて黄泉川を指差す。 「お前の部屋じゃないか!」 「そうじゃん」 「この部屋では『完全武装の警備員』と『医療担当の保健委員』が必要な事態が起こっているとでも?」 「そうじゃん」 プレートには、はっきりと『黄泉川』と書かれている。 どこの世界に完全武装で帰宅する教師がいるのか。とりあえず目の前に一人いるから。他にも居るのなら是非お会いしたい。文句を言うから。 「どんな事態だよ! あぁっ、もういい! トイレだけ貸してもらうぞ」 「ここには悪魔がいるじゃん」 あくまでも真顔で黄泉川は続ける。 「それも飛びっきりの小悪魔が」 茶番に付き合うのもいい加減限界に近い。トイレだけ借りて吐くもの吐いたら、すぐにでもひの探索の旅に出ることにしよう。そしてここには二度と訪れない様にしよう。 「ただでさえ忙しいのに、全く――」 天井が玄関のドアノブに手をかける。当然だが鍵が掛っている。 「あぁ! もう早く開けろよ、黄泉川」 がちゃがちゃやってると鍵はカチンという音を立てて中から開いた。 「おっ!?」 「あ、危ないじゃん」 黄泉川が慌てて近寄って来る。 「は?」 その次の瞬間、玄関のドアが中からの衝撃で思いっきり開いた。 それこそ、二人ぐらいの人間が思いっきりドアの裏から体重を乗せたタックルをかましたくらい思いっきり開いた。 蝶番と呼ばれる部品を軸に扉は当然百八十度回頭。その進路上にあった天井の顔へも当然ぶつかる=天井の鼻の頭に特大の衝撃が奔る確立は百%。 すごく痛い。 「■★●#$%!?」 痛みで声にならない声は天井の喉から出ていた。涙目で鼻を押さえてぴょんぴょんと飛び跳ねていた天井はドアと壁の間でうずくまる。 と、同時に廊下へと二つの人影が飛び出て来る。 多分黄泉川曰く、とびっきりの小悪魔。 悔しい事に二人とも天井の記憶にある人物でもある。 昔、探した事がある少女とと今現在探している少女。 「ヒット! 目標の殲滅に成功! っとミサカはミサカは大喜びでかちどきの声を道端で拾って来た新たな戦友と一緒にあげてみたりする! イェーイ!」 「イエーイです! 予測通りのタイミングでした! でもひのって拾われてきたんですね! とにかくイェーイ! エンゼル様も『馬鹿みたいだけど、イェーイ!』と言ってますイェーイ!」 余程天井をドアと壁でサンドイッチに出来たのがうれしいらしく、お互いに手を取り合い『イェーイ!』を繰り返して喜んでいる。他に表現が無いのか。しかも天井の存在に全く気付いていない様子。 (なんでこんな所に最終信号とひのが……) 「二人の勝利なのかもなのかも!ってミサカはミサカは、初勝利の快感に酔いしれてみたりする……て、あぁ!! 黄泉川健在!黄泉川健在!ダメージは見られない、どうぞ!」 「そんな馬鹿な、もっと勢い良く行かないといけなかったのでしょうか! それとも警備員の防御力は白い悪魔並? そんな防御力なんて知りません! 最近の警備員は複合爆薬装甲《チョバムアーマー》でも装着してるのですか!?」 「学園都市の科学力は日進月歩! 通常の三十倍の速度で進化しててもおかしくないかも! てミサカはミサカはご近所なんて居ないから大声で叫んでみたり!」 「ならば再度の攻撃を加えるべきでしょうか!? しかしDDA《ダイレクトドアアタック》は命中率とタイミングに大きな問題があります。ここはひのの能力を利用した協力攻撃を!無敵の人間なんてほぼいません。お互いの能力を駆使すればもしや」 「待って、まずは黄泉川の情報を集めないといけないと思うかもっ! ミサカネットワークから情報を補完すれば貴方の能力にいくらかの信頼性が確保できるかも、でも黄泉川の装甲にどれ程の効果があるか分からない! ってミサカはミサカは、戦場で戦慄を感じずにいられないのかも!」 とりあえず戦場というのはどこだろうか。突っ込み所が多すぎてどこから手をつけて良いのか見当がつかない。あと、鼻痛い。 そうこうしているうちに、完全武装で帰宅する警備員が口を開く。 「あ~、打ち止め。あと打ち止めが拾って来たって言う神作ひの」 黄泉川、玄関のドアノブを引っつかんで、 「あんた達式の帰宅の挨拶は嬉しいんだけど、今日は私もお客さん連れてきているじゃんよ」 「お客さん? 黄泉川の知り合いと言うと……」 期待に満ちた目で黄泉川を見る打ち止め。が、「あの子じゃ無いじゃん」との言葉で一気にうなだれる。一体誰なら良かったのだろうか。 「黄泉川の知り合いって、他には芳川と小萌とか言う人しか知らないんだけど……ミサカはミサカは黄泉川の交友関係に危惧を抱きつつ聞いてみる、でも、ミサカはミサカは黄泉川って案外、友達少ないのを気にしてるかも知れないから、あえてそこは突っ込まないでおいてみたりする!」 もう言っている気がするが、黄泉川は華麗にスルー。これが大人の余裕と言う奴だろうか。天井ならゲンコツをくれてやりたくもなる内容だ。 「あんたらがさっき殲滅したのは――」 黄泉川がドアを閉めて、もう一回開ける。 少しの間が空いて、ポンと手を打つひの&打ち止め。 「――こっちの子じゃんよ。しかも大層ご機嫌斜めじゃん」 斜め向いてる機嫌の何度かは明らかに黄泉川が原因だが、そこに突っ込んだら負けなんだろうと思う。主人公として、そして人として。 ともかく、扉が開いた先。そこにはちょっぴり涙の跡がついた顔で佇む天井の姿。 停まる空気。凍りつく表情×二。少し熱の上がった人物が一。普段と変わらないのが一。 「完全武装の理由はこれか……それなら納得………………って、納得出来るかっ! このドタバタトラブルメーカーが! 全員、そこになおれぇ!」 「亜衣!?」 「知らない人! しかもちっこい! この間の黄泉川の同僚の先生といい勝負かも! その人も見た目は小学生だけど中身は――歳っていう類なのかも!」 「違うわ! ちっこいってお前が言うなぁ!」 ひの、滝の様に流れる汗をそのままに、 「あぁ!? なんで亜衣がここにっ! しかも何だか鼻とお腹を押さえてる! 刺されたんですね、一体誰がこんなヒドイ事を……ひのが刺す場所が残ってないではないですか……亜衣、とにかく大丈夫ですか? 随分と探しましたよ! ホームセンターとかコンビニとか。一体どこに行っていたんですか。あまり心配をかけないでくださ――」 「やかましい! 棒読みで言うな! 絶対今思い出したろ、というか私の台詞だよ、それ!」 帰宅の挨拶のお返しとばかりに『起こせ撃鉄 酔い止めDX』の缶をひのへと投げつける。 ――ありがとう親切な警備員のお姉さん、缶、役に立ちました。缶だけ。 「あぁ、なんだか懐かしいご無体な仕打ちが再びひのを襲ってくる! やめて下さい亜衣、このおでこはひののチャームポイントなんです。赤くなってるじゃないですか、中身の入ったジュースとか投げないで下さいよ。エンゼル様、エンゼル様、助けてくださいまし、エンゼル様。DVですよ、エンゼル様。ひのは知ってるんですよ、エンゼル様お好きでしょう、DV」 ひのの右手が滑らかに動き、フローリングの床へと涙を使った水文字を描く。 その内容。 『怒ってる亜衣に関わりたく無いの』 薄情な二重人格もあったものだ。 「エンゼル様の馬鹿ぁ」と、ひのが書く。返信も水文字。 「和尚さんに縛られて暇だからって涙で鼠を書く小坊主かお前は……」 半分呆れ、半分同情し、天井。 (黄泉川の言う保健委員の仕事というのはこれの事か) 見ると黄泉川は「早くもって帰れ」的な表情を浮かべていた。 (最初から知っていたな、この女) 黄泉川は、あまり品の良くない笑顔を浮かべているがとりあえず置いておこう。 先にこっちだ。 右手を向けて、指でピストルの形を作りひのに向ける。 「……探したぞ。それこそたくさん、たくさんだ……」 いくつかの青白いスパークが迸り、静電気を帯びた髪の毛がぶわっと逆立つ。 「おお、ミサカ達と同じ発電系能力者なのかも」 天井の能力は電子の操作なので、同系統の能力者には電子の動きで分かるのだろう。ソファーをガッタンガッタン揺らしながら打ち止めがはしゃぐ。 「亜衣……『電子同調《ディアルパルス》』を医療目的以外で人体に向けるのは冥土返しから禁止されてる筈なんでは、その撃ち方だと攻撃モードじゃないですか?」 本来の電子同調は、電子を操作して、対象の代謝能力を刺激し自然治癒を促すという使い方をする。発電系の能力の基本として、電子機器へのハッキングや電子ロックの解除など汎用性も持ち、電子を束ねて発射も可能。 と効果を羅列すると、一見便利そうに見えるから不思議だ。 実は、周囲の電子への呼び水となる自分の生体電流操作にある程度の集中がいる、という欠点を持つ能力である。更に言えば、射程距離も長くない。正直、天井も空間転移みたいな便利な能力が良かった。 とりあえずは一歩。距離を詰めてから、質問に答える。 「うん、“人に撃つと危ないから、控える様に”って言われている」 「ですよね、十万ボルト級の電撃を喰らう事になりますもんね、心臓が弱かったりすると、特に危ないですし」 だからひのには撃ちませんよね、と確認のつもりなのだろう。ほっと、胸を撫で下ろすひの。 「ミサカ達と同じ位なのかも!ってミサカはミサカは会話に入ろうと試みてみたり!」 会話に乱入するちびっ子。この際無視する。出来るだけ関わり合いたくない。彼女よりも彼女に関係する一人の人物が怖い。 「控えるってのは、控えてればいいんだよな」 誰とは無しに零す。確認を取るのは自分に対してのみで充分。 右手だけは未だに水文字を書いている。内容は『危険』の一言。 (どうやらコイツだけは理解している様だな) 「そうですね、痛いですし、亜衣の電撃」 「そうだな、痛いだろうな」 「すごく痛いです」 「わかった。“これから”は撃つのは控えるよ」 照準を固定。目標――神作ひの。髪の毛に帯電していた電子が、体表を伝って指先へと集中し、青白く放電を繰り返すビー玉ぐらいの球体が出来上がる。これが弾丸となる電子の塊。 あとは引鉄を引けば対象に向けて光速で発射される。大気に反応して放電を繰り返すと著しく威力が落ちるので射程は十メーターがいいところ。 首筋など神経が集まっている場所に当たれば気絶は確実。手や足などの末端部分に当たっても相当に痛い。多分強力なスタンガンを喰らうぐらいの威力はあるだろう。 「それ、控えるって言いませんよ! 亜衣!」 少しでも遠ざけたいのだろう。顔だけ逃げてるのだが、ぶっちゃけあまり意味が無い行動に思える。 「ひの」 と、ゆっくりと言葉を吐く。いままでもよおしていた吐き気はいつの間にか失せていた。 確かに冥土返しから“無闇に人とかに撃つのは控えた方がいいよ。でないと自分の生体電流の刺激に耐性が出来て、これ以上背が伸びないかもよ? 君だって成長したいだろう?”とは聞いている。 逆に言えば、冥土返しから受けた注意は、結局その程度の事だけ。 「“撃っちゃ駄目”とも聞いて無いんでな」 笑顔によく似た表情を浮かべ、ひのの目を覗き込む。浮かぶ感情は恐怖で占められていた。 「それは言葉のあやでは……目がすわってます、亜衣……それは笑顔ではありませんね、落ち着いてください、いつもの冷静さはどこに行ったのですか」 「そんなの関係ねぇ、とりあえずお仕置き!」 なりふり構わず全力で窓へと脱出を試みるひの。 「いやぁああああぁぁぁぁぁ嗚呼あぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ、助けてエンゼル様ぁぁぁぁぁぁっぁあ!」 だが、もう遅い。充分に射程距離に入ってしまっている。 天井、荒んだ笑顔で「バン!」と一声。 と共に指先の電子球が飛翔。光の速さで電子球がひのの背中へと吸い込まれる。 発射さえすれば電子の速さは地上最速。とても回避できる物では無い。 「みぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあっぁあ!」 なんだか近所迷惑な悲鳴を上げて、ひのは悶絶。 ポテリ、と転げたひのの首根っこを掴み、再び電子同調を開始。今度は自分の脳内電流を操作。対象設定――右腕部及び脚部。電圧調整――筋力増強モード。 いわゆる火事場の馬鹿力を任意で発揮する状態。 ひのさえ確保できれば長居は無用。厄介なのが目を覚ます前にお暇するとしよう。そうしよう。 「じゃ、黄泉川先生。あと最終信号。お手数おかけしました。今日はもう遅いんでお礼はまた後日にでも伺います」 「え、あぁ、気をつけて帰るじゃんよ」 「その人、生きてるのかな? て、ヤバそうにぐったりしているんだけどもってミサカはミサカはよく気がつく事をアピールしてみたり……」 「いえ、お構いなく」 これ以上の厄介事は御免こうむる。天井亜衣は面倒事が一方通行の次に嫌いなのだ。 後ろ手ですばやくドアを閉め、退出。 黄泉川のマンションを出ると、夜空には満天の星が光っていた。 以前の自分なら星を見上げる余裕なんて物は持ち合わせていなかった気がする。 第二の人生ともいえる自分の状況は果たして幸福なのか、それとも…… 引き摺りマスコットと化したひのを見て、 「はぁ、明日から大変だなぁ」 と零し、 「それでも明日も星を見上げる事ぐらいの余裕はあるよな」 と、続ける。 冥土返しの用事に加えて保健委員としての公務。それに学園生活。 天井の抱える厄介事は、ここ最近枚挙に暇が無い。それに加えて今日からは、悩み事の種が一つ増えてしまった。 だけど、この状況を天井は、人より少しだけど『幸福』だと感じている。 普通が一番特別で、特別なのが格別に不幸なのだと今の天井は知っている。 天井亜衣が感じるこの心地良い『普通の幸福』の為なら、多少の面倒は抱えよう。厄介ごともこなそう。悩みも解決しよう。 (願わくば、この『普通で幸福』な時間がいつまでも続きますように) 夜空に輝く星の一つに願いを込めて、天井は自分の部屋に向かって歩き出す。 空の星と月は天井の行く先をほんのりと照らしてくれていた。
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/42.html
放課後 ―――――――――― 上条「そうだ、土御門」 土御門「何だ?」 上条「相手チームの予想ってできるか?」 土御門「大体わかってるにゃー、味方の面子を見る限り科学側の人間は相手にはいないにゃー」 上条「つまり魔術サイドの奴らが相手かよ!?」 土御門「そう言う事だぜい」 上条「あいつら野球なんてできるのか?」 土御門「どうだかにゃー、それよりもまずは味方の実力を見るために明日から練習を始めるぜい」 上条「ああ、そういえば、授業はどうするんだ?」 土御門「もちろんあるにゃー。その代わり、午後の授業は免除になってるにゃー」 上条「美琴達は?」 土御門「放課後合流の予定だぜい」 上条「よし、じゃあ明日から頑張りますか!」 土御門「そうだにゃー、練習には黄泉川センセが付き添ってくれるらしいにゃー」 上条「ってことは他のクラスの保体の授業は・・・」 土御門「決まってるぜい、ゴリラ(災誤)だにゃー」 上条「珍しくラッキーだな」 土御門「そりゃ常盤台の子が災誤について行けるわけがないからにゃー」 上条「それはそうだな」 こうして2人はそれぞれの寮の部屋に帰っていったのだった ―――――――――― 翌日の放課後 上条「いい天気だな」 美琴「そうね、スポーツにはもってこいって感じね」 土御門「それじゃあ全員集まってるみたいだし早速始めるぜい」 一方「ンで、何するンだァ」 土御門「それは今から黄泉川先生に言ってもらうにゃー」 黄泉川「よし、それじゃあとりあえず全員ストレッチとランニング・・・ウォームアップしてくるじゃん。それが終わったら一旦集合、そのあと守備位置別に集まってそれぞれの練習をしてもらうじゃん。それじゃあ上条と土御門が中心ににってやっていくじゃん」 上条「わかりました、それじゃあみんな広がって体操から始めるか」 全員「「「「「おー!」」」」」 こうして、科学サイドのメンバーの練習が始まったのであった ―――――――――― 黄泉川「よし、それじゃあ一旦全員集合するじゃん」 全員が集まった後黄泉川は口を開いた 黄泉川「それじゃあピッチャーとキャッチャーは早速ブルペンに行ってくるじゃん、練習内容は土御門に既に伝えてるから、向こうではじめるじゃん」 土御門「了解だにゃー、じゃあみんな行くぜい」 黄泉川「それじゃあ次、内野、外野はノックするから守備位置につくじゃん」 内・外野「「「了解!」」」 ―――――――――― 土御門「じゃあ早速始めるぜい」 月夜「はじめるって何やるの?」 土御門「とりあえず全員の実力を知りたいから一人ずつ球速、変化球等を見ていくにゃー」 その手にはスピードガン 土御門「じゃあ俺がキャッチャーやるから情報屋が後ろで計測して欲しいニャー」 紫木「おう、わかった」 土御門「それじゃあ順番に計測していくから、月夜からマウンドに上がって欲しいにゃー」 月夜「ん、了解」 土御門「それじゃあはじめるにゃー」 全員「「「「おー!」」」」 ―――――――――― 黄泉川「それじゃあ全員位置についたな、それじゃあノックはじめるじゃんよ。とった球は井ノ原姉に返球するじゃん」 一方こちらは内・外野、こちらはDHの真昼(登録守備位置はキャッチャー)に返球していくことになっている 黄泉川「それじゃあファースト!」 カキンッ!と金属バットで軽く打った音がして、ボールはファーストに転がっていく 垣根「余裕余裕♪」 真正面にきたボールは垣根のグラブに収まった 黄泉川「次!」 浜面「よっと、楽勝だぜ」 二遊間を抜けていきそうな球を浜面が難なくキャッチ、さすが第三次世界大戦をくぐり抜けてきただけはある。身体能力は申し分ない 黄泉川「次ショート!」 カーンッ!といい音がし、三遊間を抜けていきそうなライナーが飛んだ 上条「うわっ!?捕れるか!?」 上条は横っ飛びし、捕ってみせた。ここまではスーパープレイなのだが・・・ 上条「うわっ!?」 美琴「え?キャッ!?」 そのままサードの美琴にダイブ 美琴「いてて・・・ちょっと当麻!大丈夫!?」 上条「なんとか大丈夫だ、美琴は?」 美琴「私は大丈夫だけど、いつまでこの体制でいる訳?」 上条「え?体制?」 上条は美琴に馬乗りになっていた 上条「え?っあ!スマン!今はなれるから!」 佐天「うわあ、上条さんって大胆ですねえ」 白井「さっさとお姉さまから離れなさいこの類人猿!」 セカンドでノックを待っていた佐天がからかい、外野にいた黒子がテレポートで上条の頭に飛び、蹴りを入れた いきなり背後から蹴られ、上条の顔は美琴に急接近し、そのまま チュ・・・ キスしてしまった 美琴「え、今のって・・・」 上条「美琴、今のは不可抗力だぞ!それと白井!いきなり蹴り入れんな!」 白井「す、すみませんの・・・(今までの癖でついやってしまいましたわ)」 上条「まったく・・・で、美琴大丈夫か?」 美琴「だ、大丈夫、キスならいつもしてるし・・・///」 そう言いつつ顔は真っ赤である 黄泉川「全くこのバカップルは・・・」 一方「そりゃ仕方ねェだろ」 黄泉川「もうほっといて次行くじゃんよ」 こうして、練習はつつがなく進行したのであった ―――――――――― 次回は野球番外編で「あんたはどこの球団のファンな訳?」を予定しております
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1445.html
とある授業の社会見学 序 学園都市。 東京西部を開発して作られた超能力開発機関。人口二三〇万人を数える一大マンモスタウンでありな がら、住人の八割が学生である街。 そんな街の一角のありふれた学生寮の一室で、今晩の夕食の後片付けをしながらふと思い出した様 子で上条当麻は同居人であるシスターに声をかけた。 「っと、そうだ、インデックスー?」 「ん? なーに、とうま?」 返事をしてはいるが、視線はテレビの画面から一時も離さないというかほとんど上の空であるインデッ クス。 ちなみに、彼女が現在夢中になっているのはテレビアニメ 「超起動少女カナミン - Ple Pure -」 と いう番組で、夏休み中に再放送されていた第一作目の続編シリーズの三作目になるものである。ゴール デンタイム時放送のアニメにしては一話毎の展開が速い上、物語も中盤に差し掛かり、結構目が離せ なかったりするのである。 「今いいところなんだけど」 「ん、わりぃ」 返された言葉に若干含まれる不機嫌さに謝りながら、洗い物を済ませた手を拭いて用意したお茶を出 す。その手順に無駄は無く、急須から注がれる緑茶の色も申し分のないもの。 注いだ湯飲みをまずインデックスの前に置き、茶菓子となるあられを並べていく。さっそくあられに手を 出すインデックスを見ながら自分の湯飲みから一口すする。中々の出来と思うが、同居している女の子 がいるのに自分だけ家事のスキルが上がっていくのはいかがなものか、などという考えが浮かんだり 浮かばなかったり。 まあそんな考えは目の前の少女に知られると、いろいろ後が大変なのですぐさま心の引き出しに仕舞 い込むのだが。 「明日なんだけどさ、うちの学校が社会見学ってやつで帰りが少し遅くなるかもしんねぇからさ。一応用 意をしとくからあんまり遅くなるようだったら先に食べててくれるか?」 「? しゃかいけんがく? 何それ?」 当麻の言葉に反応を示しているが、放映時間も終盤に差し掛かっているために明らかにそちらの方に 気を取られている。 「ああ、うーんと、普段生活している世の中がどういう仕組みで成り立っているのかを見て学ぶもの、か? まあ、そんなに遅くはならないと思うけど、現地集合・解散じゃなくて一度学校まで戻ってこないといけな いから、その分余計に時間がかかるだろうしなぁ」 「ふーん、そうなんだ。――――――――ああっ!」 気の無い返事を送っていたところに番組が尺のラストにきて急展開を見せ、そのまま次回に繋げていっ たので、当麻との話はほとんど丸投げのインデックス。話していた当麻の方も、何気に見ていた番組に 引き込まれかけていたようで、話半分の様子ではあったがそれ以上の説明をしなかった。 「さて、と」 しばらくしてお茶を飲み終えた当麻が湯飲みなどを片付け始め、先程のテレビの内容を頭の中に整理し て仕舞い込んでいるインデックス、と何だかさっきも見た感じの室内となって夜は過ぎていった。 こうして、社会見学の前夜は過ぎていく――― ―――――― 「ん? とうま! しゃかいけんがくって、まいかがいってたお祭りのひとつなんでしょ?! だったらこないだの、だいはせいさいとかいちはならんさいとかの時みたいに、お店屋さんが並ぶんじゃ ないの?!なんでわたしを置いてきぼりにするつもりなのかなとうまは!!」 「おぶあ!何いきなり襲い掛かってきてんだてめえは! あとなんだよお祭りのひとつって! そんなしょっちゅう馬鹿騒ぎするような行事があってたまるか! 普通の授業に決まってんだろって言うか とっとと離れやが・・・あだだだだだ!!」 アニメの内容を整理していたら当麻との会話の内容がようやく入力され、祭りでのけ者にされると感じた 食欲シスターの噛み付き攻撃にあう『不幸』な少年。 社会見学祭開始前夜が過ぎるていくのはまだ暫くかかりそうである―――。 とある授業の社会見学 序―2 上条当麻がインデックスに頭を丸齧りされているのと同じ頃、当麻の通っている学校の職員室で、担任である 小萌先生は机に向かって何やら作業をしているところであった。 パソコンの画面に学園都市の地図を読み出したり、プリンターで出力した資料にチェックを入れたり、さらに他 の資料をコピーしたり、それらを分厚いクリアファイルに閉じていったりと中々に忙しそうである。 さらに、小萌先生の身長は一三五センチ程なので、机からコピー機や資料の棚に移動する際にも、一手間余 計に掛かってしまう為、輪をかけて小萌先生の動きは慌しいものとなっている。 そんなふうに動きまわっていると、職員室の扉が開いて一人の教師が入ってきた。 「ありゃ、月詠センセ、まだ学校に残ってたの? 相変わらず仕事熱心じゃん」 入ってきたのは黄泉川愛穂という名の教師である。 ちなみに、彼女の担当教科は体育であるために年中のほとんどをジャージで過ごしている。ジャージを着てい るのがもったいないくらい美人でスタイルの良い大人の女性なのだが、今日も今日とて、またジャージを着て、 長い黒髪を後ろで軽く縛ったラフな格好をしている。 「あ、はい。明日のための準備をですね、まだもう少ししておこうと思ってるのですよ」 「ふーん。…っと、センセ、プリントが一枚落ちてるじゃん」 軽い足取りでプリントを拾うと、小萌先生に手渡そうとする黄泉川。その際見えたプリントの内容に思わず疑問 が口をついて出る。 「んん? 社会見学祭に出展予定の全企業・グループ、研究機関の全リストと活動内容、及び、学園都市内外 両方の活動施設場所? センセ、こんなの一々全部調べてたら時間なんていくらあっても足りるわけ無いじゃん」 「そうは言ってもですね。うちのクラスの生徒さんはいろいろと手が掛かる子が多いのでこうやって調べておか ないと心配なのですよ。それに、こうやって調べておけば何かあった時も行動が取りやすいと思うのですよ」 その答えに、 「そんなもんかねぇ…。センセのところの生徒さんたちはかえって何かあった時なんか、クラスがまとまって臨機 応変に対応できそうな感じがするじゃんよ。ウチのは普段の生活はそつなくこなせるけど突発的事態には向い てない無難な優等生ばっかで、センセのとこみたいにはっちゃけてる奴はいないんじゃん」 などと気楽そうに返す黄泉川。 「なっ、う、うちのクラスの子たちだって、皆が皆そんなにはっちゃけてる子ばっかりじゃありませんよ!」 そんな黄泉川に対して迫力のない目で睨み付けながら小萌先生は反論しているが、対する黄泉川はあっけら かんとしている。 「まあまあ、どの先生でも自分の預かってる生徒さんたちはかわいく見えるもんじゃん♪」 「なっ、何を言ってるんですか!」 顔を真っ赤にして叫ぶ小萌先生を楽しそうに見ていたが、ふと真面目な口調で呟く。 「まあ実際、こんなウチでも預かってる子どもらは可愛いわけで。だからこうやっていろいろと準備をしちゃうわ けなんじゃん」 見れば、彼女はいつの間に出してきたのか大型のスポーツバッグを足元に置き、他にも色々と道具を手に取 りながら別の袋に詰めている。 「それは……」 「明日の社会見学祭は一応、企業側のデモンストレーションで学校側はそれを見学するだけ、イベントの裏側 には積極的には関わらないってことだけど、何があるか分かんない以上、ウチとしても出来るだけの準備をし ておこうって思ったんじゃん」 気遣わしげな小萌先生の視線に気付くと、照れくさそうに笑う黄泉川。されど、その言葉、その瞳にふざけた色 は無い。 そう、明日は学園都市が年に数回外部に向けて公開する内の一日。 外部からの関心、興味も高いが、それは生徒の側も同じ事。 日頃から学園都市の中だけで生活している身としては、外部と接触、交流を図る数少ない機会なのである。 それを期待している生徒たちのためにも、明日は何にも邪魔されずに精一杯楽しんでもらいたい。 彼女が所属している警備員も、そのためにこそあるのだから。 「まぁ、何かあったときはセンセにはウチのクラスの連中も頼むことになるかも知れないから、今のうちにお願い しておくじゃん」 「ほ、本当は何事もなければ一番なのですよ!」 「そりゃそうだ! こりゃセンセに一本取られたかな!」 心配する小萌先生を見て、不安を吹き飛ばそうとするかのように明るい声を出す。 わざわざ不安要素を前面に出す必要は無い。事が起こったら起こったとき。先のことが分からない以上、その とき自分にできる事をやればいいのだと。 「それじゃウチはこれで失礼するじゃん。センセもあんまり遅くまで準備で残って、明日の朝寝坊しないように気 を付けなきゃだめじゃんよ」 「なっ、そ、そんなことはしませんよ!」 「あっはっは、それじゃーねーん」 足取りも軽く職員室から出て行く黄泉川。 「もう、まったく…」 それを見送った小萌先生も小さく息を吐くと残っている作業を片付けていく。彼女は彼女、自分は自分にできる ことをするために…。 「でも、明日は本当に、生徒の皆さんが楽しめる一日になって欲しいのですよ…」 呟きながら見上げる小萌先生の視線の先には雲一つ無い星空。天頂にある月は何も語らず、ただ静かに光を 降り注いでいる。 社会見学祭開催前夜はこうして更けていくのであった……。
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/37.html
放課後 ―――――――――― 上条「そうだ、土御門」 土御門「何だ?」 上条「相手チームの予想ってできるか?」 土御門「大体わかってるにゃー、味方の面子を見る限り科学側の人間は相手にはいないにゃー」 上条「つまり魔術サイドの奴らが相手かよ!?」 土御門「そう言う事だぜい」 上条「あいつら野球なんてできるのか?」 土御門「どうだかにゃー、それよりもまずは味方の実力を見るために明日から練習を始めるぜい」 上条「ああ、そういえば、授業はどうするんだ?」 土御門「もちろんあるにゃー。その代わり、午後の授業は免除になってるにゃー」 上条「美琴達は?」 土御門「放課後合流の予定だぜい」 上条「よし、じゃあ明日から頑張りますか!」 土御門「そうだにゃー、練習には黄泉川センセが付き添ってくれるらしいにゃー」 上条「ってことは他のクラスの保体の授業は・・・」 土御門「決まってるぜい、ゴリラ(災誤)だにゃー」 上条「珍しくラッキーだな」 土御門「そりゃ常盤台の子が災誤について行けるわけがないからにゃー」 上条「それはそうだな」 こうして2人はそれぞれの寮の部屋に帰っていったのだった ―――――――――― 翌日の放課後 上条「いい天気だな」 美琴「そうね、スポーツにはもってこいって感じね」 土御門「それじゃあ全員集まってるみたいだし早速始めるぜい」 一方「ンで、何するンだァ」 土御門「それは今から黄泉川先生に言ってもらうにゃー」 黄泉川「よし、それじゃあとりあえず全員ストレッチとランニング・・・ウォームアップしてくるじゃん。それが終わったら一旦集合、そのあと守備位置別に集まってそれぞれの練習をしてもらうじゃん。それじゃあ上条と土御門が中心ににってやっていくじゃん」 上条「わかりました、それじゃあみんな広がって体操から始めるか」 全員「「「「「おー!」」」」」 こうして、科学サイドのメンバーの練習が始まったのであった ―――――――――― 黄泉川「よし、それじゃあ一旦全員集合するじゃん」 全員が集まった後黄泉川は口を開いた 黄泉川「それじゃあピッチャーとキャッチャーは早速ブルペンに行ってくるじゃん、練習内容は土御門に既に伝えてるから、向こうではじめるじゃん」 土御門「了解だにゃー、じゃあみんな行くぜい」 黄泉川「それじゃあ次、内野、外野はノックするから守備位置につくじゃん」 内・外野「「「了解!」」」 ―――――――――― 土御門「じゃあ早速始めるぜい」 月夜「はじめるって何やるの?」 土御門「とりあえず全員の実力を知りたいから一人ずつ球速、変化球等を見ていくにゃー」 その手にはスピードガン 土御門「じゃあ俺がキャッチャーやるから情報屋が後ろで計測して欲しいニャー」 紫木「おう、わかった」 土御門「それじゃあ順番に計測していくから、月夜からマウンドに上がって欲しいにゃー」 月夜「ん、了解」 土御門「それじゃあはじめるにゃー」 全員「「「「おー!」」」」 ―――――――――― 黄泉川「それじゃあ全員位置についたな、それじゃあノックはじめるじゃんよ。とった球は井ノ原姉に返球するじゃん」 一方こちらは内・外野、こちらはDHの真昼(登録守備位置はキャッチャー)に返球していくことになっている 黄泉川「それじゃあファースト!」 カキンッ!と金属バットで軽く打った音がして、ボールはファーストに転がっていく 垣根「余裕余裕♪」 真正面にきたボールは垣根のグラブに収まった 黄泉川「次!」 浜面「よっと、楽勝だぜ」 二遊間を抜けていきそうな球を浜面が難なくキャッチ、さすが第三次世界大戦をくぐり抜けてきただけはある。身体能力は申し分ない 黄泉川「次ショート!」 カーンッ!といい音がし、三遊間を抜けていきそうなライナーが飛んだ 上条「うわっ!?捕れるか!?」 上条は横っ飛びし、捕ってみせた。ここまではスーパープレイなのだが・・・ 上条「うわっ!?」 美琴「え?キャッ!?」 そのままサードの美琴にダイブ 美琴「いてて・・・ちょっと当麻!大丈夫!?」 上条「なんとか大丈夫だ、美琴は?」 美琴「私は大丈夫だけど、いつまでこの体制でいる訳?」 上条「え?体制?」 上条は美琴に馬乗りになっていた 上条「え?っあ!スマン!今はなれるから!」 佐天「うわあ、上条さんって大胆ですねえ」 白井「さっさとお姉さまから離れなさいこの類人猿!」 セカンドでノックを待っていた佐天がからかい、外野にいた黒子がテレポートで上条の頭に飛び、蹴りを入れた いきなり背後から蹴られ、上条の顔は美琴に急接近し、そのまま チュ・・・ キスしてしまった 美琴「え、今のって・・・」 上条「美琴、今のは不可抗力だぞ!それと白井!いきなり蹴り入れんな!」 白井「す、すみませんの・・・(今までの癖でついやってしまいましたわ)」 上条「まったく・・・で、美琴大丈夫か?」 美琴「だ、大丈夫、キスならいつもしてるし・・・///」 そう言いつつ顔は真っ赤である 黄泉川「全くこのバカップルは・・・」 一方「そりゃ仕方ねェだろ」 黄泉川「もうほっといて次行くじゃんよ」 こうして、練習はつつがなく進行したのであった ―――――――――― 次回は野球番外編で「あんたはどこの球団のファンな訳?」を予定しております
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/782.html
美琴は油断していたのかもしれない。 いや、油断していた。 コンクリートの煙幕を張ってからしばらく少女からの攻撃が無かったこと、 そして黒子が警備員達を下げることに成功して戻って来たこと。 少女からは本当に見えていないと思っていた、黒子と2人なら大丈夫だと思っていた。 黒子が空へテレポートして、煙幕の先にいる少女を確認後、少女の元へテレポートして確保。 完璧な計画。 少女が本当に手も足も出ない状況だと思い込んでいたのだから。 だからこそ思いもしなかった 無数の電撃が美琴達に向かってくるとは。 「お姉さま!」 「え──あっ!」 電撃を放って打ち消すが間に合わない。数が多すぎる。 黒子は電撃に対して為す術無く、テレポートで避けるしかできない。 いつも美琴が遊びで放っている電撃とは違う。当たれば無傷では済まない。 美琴も電撃を放っては打ち消し、横をすり抜けた電撃には追撃するように電撃を放ちなんとかやり過ごす。 しかし、次々と放たれる大量の電撃。 彼女にここまでの能力は使えるはずが… は─と美琴はあることに気付いた。 煙幕として放ったコンクリートの粉。 それらの摩擦電気を利用して、威力は小さいながらも大量の電撃を放つ。 なぜ電撃使いの頂点に立つ自分がこんな簡単なことに気付かなかったのだろう、 もし自分が同じように煙幕を張られていたら利用していたに違いないのに。 後悔したところですでに遅い。 間髪無く電撃は放たれているのだ、今は後悔よりも先にすることがある。 目の前の電撃を打ち消し、時には身体を捻って避けた電撃を追撃する。 秘策を返された悔しさからか、次第に焦りと苛立ちが出てくる。 「あー!もう!」 ふと、電撃の嵐が止まった。 相手の次の手を考え、攻撃の間隔を掴み、その間隔に合わせて電撃を放っていた美琴は拍子抜けする。 立ち相撲で相手を勢い良く押そうとしたが、相手が手を引いて空回りしたように、美琴の力は一瞬ふっと行き場を失う。 その瞬間、またも無数の電撃が向かってきた。 空回りをした状態から元に戻るのには時間を要する。 電撃の準備が完了した時、既に美琴の目の前に光があった。 「──」 間一髪で黒子がテレポートで現れ、横から突き飛ばしてくれた。 黒子と一緒に倒れこむ、痛いなんて言っている暇は無い。 倒れたままの体勢で電撃を放ち、次々と撃墜していく。 だが、最後の1つだけが追いつかなかった。 よりによって、一番大きな電撃だなんて。 「あ……」 既に彼方にある青白い光は、ある所で四方に弾けた。 きっとそこは… 考えたくも無かった。 「くっ─」 悔しさのあまり道路に拳を叩きつける。 痛みが走り、血が滲み出るが今はどうでもよかった。 「お姉さま!能力者が!」 黒子に呼ばれてはっと意識を戻す。 まだ戦いは終わってはいない。とにかく少女を─ と振り返ると、少女が力無く倒れる瞬間だった。 警戒しながらも近寄ると、少女は気を失っているようだった。 呼吸は浅く早い。 じっとりとした汗で前髪が額に貼りついているのを見ると、少女がいかに無理を「させられた」のかがわかる。 「黒子!アンチスキルの本隊までお願い!」 この少女の容態も気になるが、なにより気になるのはさっきの電撃。 「お安い御用ですの!」 美琴と少女の肩に黒子が触れる。 程無くして3人は消えた。 荒れたビル街に静けさが走る。 背の高いビルに人影が一つ。 手にはゲームのコントローラーのような物が握られていて、口元の端は釣り上がっていた。 時間が止まった。 という表現が正しいだろうか。 黄泉川達の後ろから青白い光が迫った瞬間、誰もが息をのんだ。 そして迫る強烈な光に、目を塞いだ。 ――おかしい、何ともない… 不思議に思いながら黄泉川はゆっくりと目を開く。 まず目に入ったのは静けさから変わって、騒然とした本隊。 眩しさのため、光の方向から顔を背けたようだ。 本隊の隊員達も、黄泉川と同じことを思っているのだろう、 自分の身体を動かしたり怪訝な表情で見ている者ばかりだ。 ふと、ある一角がどこかを指差しながらざわめいている。 周りの隊員達もそれにつられて、つられて、黄泉川もつられてそちらを見た。 だが、すぐ目の前に人影があり、黄泉川は思わず顔だけ後ろにずらす。 少し顔を離して見ると徐々に焦点があってくる、 その人影は右手を突き出した状態で立っていた。 「─上条!」 なぜこの名前が出たのかわからない。 その人影は、自分達に背を向けていて表情はおろか横顔も見えないのに… それでも、反射的に出た言葉は間違ってはいなかった。 「あ…えと、大丈夫ですか?黄泉川先生…」 「お前…いったい…」 この場にいる全ての警備員が上条に注目し、上条の返答を待った。 妙な静けさが漂う。 「えっと…詳しいことは後ほどお話します! とにかく、お願いがあります。 今ここで起きたことを、他に漏らさないでください!」 ざわざわと、隊員達が静かに騒ぎ出す。 上条の頼みが通じたかどうかはわからないが、しばらくすると隊員達は各々の仕事に戻りだした。 上条の近くにも、才郷を運ぶための担架が持って来られる。 「あとは頼んだじゃん」 黄泉川は担架が遠ざかって行くのをしばらく見て、上条に向き直った。 「とにかく、車のほうに戻るじゃん」 車はちょうど本隊の真ん中あたりになっていて、そこに行くまでに多くの隊員達が慌ただしく動いていた。 しかし上条が通ると、仕事の手を止めて声をかけてくる。 「さっきのどうやったんだ?すげーよ!」 「それなんて能力だ?聞いたことないぜ」 「上条だっけ?高校生なのに臨時で雇われた理由がわかったよ」 労いの言葉の中を、上条は会釈しながら歩いて行く。 車まで戻ると、黄泉川はまずカーラジオの下に付けてある無線機のマイクに手を伸ばした。 「本部、こちら黄泉川。 本隊にいる隊員全部に向けて、今この場で起こったことの口止めを頼むじゃん」 本部からの応答はなかったが、しばらくしてその旨を伝える命令が上条の無線機からも聞こえた。 「それで、その右手はどういうことじゃん? お前、無能力者じゃないのか?」 黄泉川が車のボンネットに手を付きながら訪ねてくる。 表情は険しいが、上条の右手をまじまじと見つめている。 「俺は無能力者です… それでも、この右手は能力者の能力を打ち消すことができます」 上条は握りしめた右手を見つめる。 「俺はこれを幻想殺しと呼んでいます」 「幻想殺し…ねぇ…」 黄泉川は腕を組んで俯きながら考え込む。 今日まで無理矢理に自分を納得させてきた。 上層部が選んだのが、なぜウチの学校だったのか、なぜ無能力者なのか、なぜ彼だったのか。 いろいろな仮説を組み立ててきた。 新米警備員に対して自分の研修が悪いからそのための訓練とか、 上条が実は超問題児でその戒めとか、 その逆で実は超重要人物で警備員の保護下に置くためとか。 その仮説が無駄になると共に全ての疑問が解けた。 結局、上層部は上条を道具としてしか見ていなかった。 「それで、お前がアンチスキルの話が持ちかけられた時に、上層部の企みも分かっていたのか?」 「えぇ…まぁ薄々は… そうでないと、俺が呼ばれる筈も無いですし」 バツが悪そうに頬を掻く上条。 黄泉川は小さく溜め息をついて 「小萌先生は、その能力を知っているのか?」 「はい…」 とは言っても上条自身は小萌が右手について知った時を体験していない。 あくまで人に聞いた話だ。 「そうか…」 もしかしたら、おでん屋で小萌の言った言葉 『黄泉川先生がいるので安心なのです!』 この事件に限って言ったのではなく、上層部の企みも見越して言ったのかもしれない。 上層部は本当にこの能力者暴走事件を早急に解決したくて上条を呼び込んだのか、それとももっと裏の計画があるのか。 黄泉川には分からない。分かるはずもない。 自分は本当にこの上条当麻を守ることができるのか。 逆ではないか、ついさっき電撃から守られたのはどこのどいつだ。 己の無力さを実感しながら、黄泉川はバンとボンネットに両手を付いた。 「くそっ!」 黄泉川の行動に、怒らせてしまったのかと焦る上条だが、表情を見るかぎりそうは思えない。 「あ、あの…黄泉川先生」 恐る恐る声を掛けると、黄泉川は俯いたままだったが視線を自分へ向けてくれた。 「そんなに自分を責めないでください。むしろ責められるのは俺のほうです。 わざわざ隠すようなことをして、すいませんでした。 隠すつもりは無かったのですが、言うタイミングが無くて… 最初から言っていれば黄泉川先生が悩むことなんて無かったのに…」 黄泉川と同じように俯く上条。 黄泉川はしばらく横目でそれを見ていたが 「っぷ…はははっ!」 突然笑い出した。 「な、なんですか! 今のシリアスな場面じゃなかったんでせうか!?」 「いやっ!はははっ悪い! お前でもそんな顔するんだなって…はははっ!」 「どういうことですか! 俺にはシリアスキャラは似合わないってことですか!?」 「うん」 「即答!?ふ…不幸だ…」 案外その空気に溶け込んでいた上条は心の底から思った。 「冗談…かな。 とにかくお前はいつも明るくしていればいい。そうやって悩まなくていいじゃん」 「そ、そうですか…」 なんだか無理矢理納得させられた感じだが、何だか少し傷ついた上条にはどうでも良かった。 とにかく自分が元気ならいいのだろう。そう言い聞かせる。 「あー…なんか笑ったら難しく考えるのも馬鹿らしくなってきた。 いや、どうでも良いってわけじゃ無いじゃん」 わかってますよ、と上条が薄く笑うと、 黄泉川はボンネットに座って小さな溜め息と共に鼻で笑う。 どうやら今日は部屋を片付けなくていいようだ。 「ジャッジメントが戻ってきたぞ!」 黄泉川に促されて上条も車のボンネットに腰掛けた頃、本隊の誰かが叫んだ。 急いでヘルメットを深く被り、下ろしていたフェイスマスクを鼻まで上げる。 救護班が慌ただしく動き始め、その中で2人の少女が心配そうに救護用のストレッチャーを見つめている。 自分を見るときは闘争心をあらわにする瞳も、今は不安の色でいっぱいだ。 しかし、救護車がストレッチャーを乗せて走りだすと、美琴は周りの隊員達に立てつくような勢いで話しかけた。 文句を言っているわけでは無いようで、隊員が美琴の威圧感に押されながらも何かを答えると、美琴はすんなりと下がった。 しかし美琴は次々と隊員達に話しかけていく、美琴ほどの勢いは無いものの黒子も何やら隊員に話を聞いていた。 もちろん手当たり次第に聞いて回っているわけで、自然と上条達の所にも美琴が向かってくる。 一瞬席を外そうとしたが、それも不自然だし1人でいるときに話しかけられたら声で完全にバレてしまう。 それなら質問には黄泉川に全部答えてもらって、自分は黙っているのが吉だろう。 そう考えているうちに美琴は目の前に立っていた。 その表情は不安からなのか少し強張っていた。 「お手柄じゃん御坂美琴」 黄泉川が笑いながら言う。 「え、あ…どうして」 「常盤台の超電磁砲…教師の中では知らない奴のほうが少ないじゃん。 今回はありがとう、君のおかげで事件を早急かつ安全に解決できたじゃん」 「あ…いえ、私は何もやってないです。 あの能力者だって、勝手に気を失っただけで…」 もじもじしながら、フラフラと彷徨う美琴の手が真っ赤になっているのに上条は気付く。 手だけではない、いつも綺麗な制服もボロボロに傷んでいて、ところどころ赤く滲んでいる。 (御坂…) そして思わず。 ──ぱしり、と。 「え?」 手を取ってしまった。 さっきから一言も話さないうえに、この行動だ。 美琴のほうは怪訝な表情で上条を見つめる。 「あ、あの…」 手当を、の一言を発せばそれでおさまる。 しかしそれをする訳にはいかなかった。 自分の行動に後悔しつつ、上条は黄泉川へ視線をおくる。 「これは…酷い傷じゃん。すぐ救護班に見てもらったほうがいい」 黄泉川も美琴の怪我に少し驚きながら言う。 「い、いえ…大したこと無いので…」 美琴自身、悔し紛れに地面殴って怪我しましたなんて言えない。 「あの!それより、こっちに電撃が一つ飛んできた筈なんですが…」 それをさっきから隊員達に聞いていたのか、と2人は納得する。 「それをさっきから聞いて回ってるじゃん?」 「はい…でも、皆さんよく見ていなかったとしか答えてくれなくて…」 「私たちだってよく分からないじゃん。眩しくて目を逸らしたら、電撃が消えていた」 「そう…ですか…」 本当にがっかりしたように、美琴は肩を落とす。 「とにかくまずは手当てじゃん。おい!救護班!」 黄泉川が呼ぶと、赤十字の腕章を付けた隊員が来た。 事情を説明すると、隊員は美琴に手当てをするため、救護車のほうへ向かうように言う。 「あの、ありがとうございました」 美琴は黄泉川達に一礼して救護車へ向かうが、しばらくは上条から視線を外さなかった。 美琴が救護車に入ったのを見届けると、2人は車に乗った。 「上条…」 「はい…」 黄泉川の真剣な声色に、上条は背筋を伸ばす。 叱られるだろうか、そう思ったが黄泉川は予想外に明るくなり。 「お前って以外と大胆じゃん」 「はぁ…?」 「いやぁ、バレるかもしれないってのにあんなに気遣っちゃって。いや、悪いことじゃないじゃん」 クスクスと笑う黄泉川に上条は嫌悪の視線を向けるが、黄泉川は気に留めず車を発進させる。 「さ、一旦支部に戻るじゃん」 流れる風景を眺めながら上条は物思いに更ける。 美琴の手を取った時、正直怒鳴ってやりたかった。 どうしてこんな無理をしたんだよ、と。 そんな心配が混じった怒りと共に、全く別の怒りも湧いた。 前者は無茶をした美琴に対して、後者は何もできなかった自分に対して。 何もできなかったわけではない、確かに自分の右手のおかげで警備員本隊は損害を受けずに済んだ。 (それでも、俺がのんびり待機してる間に御坂は…) 無力な自分のせいで美琴が怪我をしたことへの絶望。 それでも自分の正体が明かせない、自分が行っても戦力にはならなかったかもしれないという合理化。 戦うことのできる美琴への憧れと嫉妬。 そして珍しくそんな感情を抱いた自分への嫌悪。 はぁ─と、身体の底からの溜め息。 いろいろな感情が混ざりに混ざって、さっきの行動、そして今の憂鬱に繋がっていた。 「あと包帯巻くので、ちょっと取ってきますね」 「はい…」 警備員の救護車の中で、美琴は手当てを受けながらさっきの事を思い出す。 (さっきの人…) 勢いよく握られたが何故か優しさを感じた。 自分を見る瞳は澄んでいて綺麗だったが、そこには不安と動揺が見られた。 そして、 (初めて会った感じじゃない…) なんとなくだが、そう感じた。 とは言え、相手は警備員。 つまり教師になるのだが、思い当たる教師はいない。 (ってか、常盤台でアンチスキルの先生なんていたっけ?) ぼんやりと考えているとさっきの警備員の顔が出てくる。 フェイスマスクはしていたが、整った顔つきをしていた。 自分をしっかりと見つめた澄んだ瞳。 (って!私ったら何考えているのよ!相手は教師なんだから) ぶんぶんと頭を振って心を落ち着かせる。 生徒と教師、それだけで何か不穏な響きがする、何より自分には意中の人が… ぼん─ という効果音が似合いそうなほど、美琴は一瞬で顔を真っ赤にする。 (って!何でアイツのこと考えるのよ!私のばかぁっ) ぶんぶんと、さっきと違い顔を真っ赤にしながら、横に振る速度も早い。 御坂美琴、いつもより多く回しております。 包帯を取ってきてくれた救護の隊員も、苦笑いしながら美琴を眺めている。 (あれ?) と、美琴はあることに気付いて静止する。 隊員はここぞと言わんばかりに美琴の元へ寄り手早く包帯を巻いていく。 (そういえばあれ…) 1つだけ撃墜できなかった電撃。 それは倒れている美琴のはるか遠くで四方に散った。 (あの散り方…) ちょっとアンタ! 無視 このっ…無視すんな! うぉわっ!あぶねーだろ、ビリビリ 不思議なことだった。 今までほとんど敵無しだった自分の能力。 そのご自慢の電撃を放っても弾かれる。 無能力者のはずなのに、彼の右手に触れた瞬間、自分の自信は四方へ消え失せる。 (まさか…ね) そんな筈が無い。そう自分に言い聞かせるが、気になり始めたら気にしてしまうのが人間である。 手当てを受けていないほうの手で、ポケットから携帯電話を取り出す。 隊員に一言断りを入れて、美琴は電話を耳へやった。 (お願い…) コール音の前のピッピッピッという音がやけに長く感じる。 (お願いだから…) 音が止んだ。 コール音が来るのかと、息をのむ。 “─お掛けになった電話は、現在電波の届かない所にあるか───” はぁ─と小さく息を吐き、肩を落とした。 ゆっくりと耳から電話を遠ざけ、鬱陶しい音声案内を切る。 「お願いだから、置いてかないでよ…」 救護車の天井を見ながら、美琴は小さく呟いた。